レビュー

概要

『Wonder(ワンダー)』は、「顔に障害がある少年が学校に通い始める」という設定だけで終わらず、周囲の人の視点を次々に渡していくことで、“いじめ”を単純な悪役探しにしない物語です。

主人公はオーガスト(オギー)・プルマン。生まれつきの顔の特徴のため、これまでホームスクーリングで過ごしてきた彼が、5年生で初めて学校(ビーシャー校)へ通うことになる。新しい教室、視線、ひそひそ声。初日から「見られる側」である現実が押し寄せる一方で、彼にはユーモアもあるし、家族に愛されてもいる。だからこそ、傷つく場面がより具体的に痛い。

物語の中心には、クラスメイトのジュリアンによる露骨ないじわると、周囲の子どもたちが取る微妙な距離感がある。親切にしたいのに怖い、味方でいたいのに空気がある——そういう“現実の学校”のグラデーションが、オギー本人だけでなく、姉のヴィア、友人のサマーやジャック、さらに別の視点の語り手たちによって補強される。

そのうえで本作が繰り返すテーマが、「正しいこと(right)と、親切なこと(kind)のどちらを選ぶか」。先生(ブラウン先生)が授業で示す“ことわざ(precepts)”も含めて、読者に「自分ならどうする?」を何度も投げてくる構成になっている。

読みどころ

  • 視点の切り替えが、感情の“逃げ道”を塞いでくる:オギー視点だけなら「かわいそう」で終われる。でも、姉ヴィアの「弟のことで自分が透明になる感じ」や、友人側の迷い、過去の友人関係の拗れなどが出てくると、誰か一人だけを裁けなくなる。
  • 学校の“空気”がリアル:ハロウィンの仮装の日に起きる決定的な出来事(誰が何を言ったか)や、机の配置、休み時間の距離感、親同士の噂まで、具体的なシーンが積み重なる。いじめの描写が大げさじゃないから、読後に残る。
  • 「親切」は才能じゃなく行動だと示す:サマーが自然体で隣に座ること、ジャックが葛藤しながらも戻ってくること。どれもヒーロー的な一発逆転じゃなく、日々の選択の連続として描かれる。
  • 終盤の“事件”が、関係を動かす:学校行事の宿泊(自然体験のようなイベント)で起きるトラブルが、クラスの力学をひっくり返す。ここは、オギーが“守られる存在”から一歩ずれる瞬間として読みごたえがある。

類書との比較

障害や外見の違いを扱う児童・YAだと、『El Deafo(エル・デアフォ)』(Cece Bell)のように当事者の孤独とユーモアを同時に描く作品や、『Out of My Mind』(Sharon M. Draper)のように“周囲が決めつける”苦しさを描く作品がある。

『Wonder』の特徴は、当事者の内面に深く入りつつも、同じくらい「周囲の人がどう変わるか」にページを割くところ。いじめっ子を懲らしめる痛快さより、「見て見ぬふり」をやめるまでのプロセスを見せてくれるので、学校現場だけでなく職場やSNSの空気にも接続しやすい。

こんな人におすすめ

学校の話がしんどい記憶を持っている人、子どもの人間関係に悩む保護者、教育・支援の仕事をしている人には特に刺さると思う。読書が得意じゃなくても読み進めやすいし、章が短く視点も変わるので、途中で息継ぎできる作りになっている。

それから、「優しくしたいけど勇気が出ない」タイプの人にも。正論だけじゃ動けない時に、具体的な行動のサイズ感を教えてくれるから。誰かの味方になるって、必ずしも大げさな宣言じゃなくていいんだよ、って。

感想

オギーは“かわいそうな子”として描かれない。ゲームやスター・ウォーズの話もするし、ツッコミもするし、時には自己嫌悪でこじらせもする。その普通さがあるから、学校での視線がどれだけ暴力になるかが伝わってくるんですよね。顔の特徴は本人の選択じゃないのに、最初の印象で全部を決められてしまう。その理不尽を、説教じゃなく日常で見せてくる。

個人的に印象的だったのは、ジャックの揺れ方。オギーと仲良くしている自分を守りたい気持ちと、クラスの空気に飲まれる怖さの間で、彼は何度も迷う。ここがすごく現実的で、「親切になれない人=悪」ではなく、「親切でいるのが怖い瞬間」を描いてくれる。読者としても、自分の過去を振り返って痛くなるところだと思う。

ヴィアの章も大事で、弟の問題が大きすぎると、家族の中で自分の悩みが小さく扱われてしまう。ヴィアは弟を愛しているのに、同時に“疲れる”。その両立を許してくれる描写があって、家族ものとしても強い。

終盤、学校行事の宿泊で起こる出来事は、ただの感動演出じゃなくて、クラスの関係が“行動”で書き換わる瞬間として機能している。誰が誰を助けたか、誰がどこに立ったか。そこで初めて、空気が少しだけ変わる。奇跡じゃなく、選択の結果として。

読み終えたあとに残るのは、「優しさって気持ちじゃなく、タイミングと行動なんだ」という感覚だった。正しいことを言うのは簡単でも、親切に振る舞うのは勇気がいる。だからこそ、本作が何度も問いかける“kindを選ぶ”が重いし、明日ちょっとだけ誰かに優しくしたくなる。そういう具体的な余韻がある本だった。

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