レビュー
概要
1995年に週刊少年エースで連載を開始した『新世紀エヴァンゲリオン』の愛蔵版第1巻。〈電子特別版〉では遺稿やあとがきなどのオリジナルコンテンツも追加され、世界観の再構築が意識されている。使徒との戦いと人類補完計画という重層的なテーマに加え、14歳の少年少女の精神的な彷徨を心理学のタームで描いた、90年代型“心理SF”の代表作であり、物語が現代に再び注目される所以を凝縮した一冊。
内容とポイント
第1巻では、量子学の専門家である碇ゲンドウが息子シンジをネルフに呼び寄せ、徒歩で横須賀へ向かうところから始まる。シンジは無感動と対話不能という心理状態で、母を失ったトラウマを抱えている。戦闘機エヴァンゲリオンを操縦することでトラウマを再体験し、状況を再コード化する象徴的なシーンが随所にあり、作者の貞本義行は精神分析と量子力学の比喩を交えて描写する。第3話で登場する「人類補完計画」の提示は、哲学的な問いを形式的に提示するだけでなく、物語内部での“精神的死”と“再生の可能性”を提示する。物語の緻密な方向性は、心理描写のディテールに支えられ、読者の知性を揺さぶる。
表現の深さと科学との接点
庵野秀明監督・庵野描き下ろしの劇伴、指定語(ニルヴァーナやオーディン)を用いた宗教的メタファと、心理的距離を測るフレームワークである“対人スケール”の描写が印象的。科学との接点として浮かび上がるのは、物語に挿入される“EVAの同期率”や“精神汚染率”といった数値であり、これらは現代の人工知能/ニューラルネットワーク研究における“スケーラブルな共感”の議論と共鳴する。ISSN1とISSN2の同期率の違いを強調した神経科学的な読み取りは、システム2のメタ認知とシステム1の直感の間で揺れる登場人物の内面を際立たせる。
類書との比較
心理SFの文脈では、押井守の『攻殻機動隊』が意識とテクノロジーの融合を描き、テクノロジーによってアイデンティティが揺らぐ人間を描く点で共通する。だが『新世紀エヴァンゲリオン』は、少年少女の心の葛藤を“人間関係の相互作用”というフィルターを通して可視化し、宗教・哲学・科学という異なる文脈を混ぜ合わせる。Amazonのサイバーパンク的な再編集版『攻殻機動隊』がデジタルと身体の境界を問うのに対し、エヴァンゲリオンは“共依存”と“相互理解”に焦点を当てており、同じように精神の揺れを描くが、より内省に偏っている点が異なる。