レビュー
概要
偽りの家族を作り上げる設定を諜報任務の核に据えるところから、この作品は異色だ。1巻では西国の名家へ潜入するため、凄腕スパイ・黄昏(ロイド・フォージャー)が「家族」を用意し、養子として孤児院から天才級の読心能力を持つアーニャを引き取る。さらに、その後見人を探す場面で、政府に忠誠を誓う暗殺者ヨルをスカウト。表の顔は平凡な公務員という3人のバランスがページをめくるたびに揺さぶられ、情報で選ばれた偽りの家族が本当に支え合えるのかを探る様が、なかば「断たれた緊張」となって読者を引き込む。
読みどころ
- 第1話「黄昏」では、任務「ストリックス」の成功が、国家安全保障に直結するスパイの視点で描かれる。ロイドは任務の成功に執着し、感情を排して会話と観察のみでパートナーを選ぶ。その冷静さが、以降の家族生活でのしゃべり方のギャップを際立たせる。
- 第3話「アーニャ」では孤児院の描写が丁寧で、アーニャの能力を示すために読心の描写がコマの中で細かく分割される。彼女は他人の思考を「吹き出し」で見てしまうが、うまく隠す術も身につけ、明るくサービス精神旺盛に振る舞う。読心を知っている割に、普通の家族への憧れを見せる場面が胸を打つ。
- 最後の章では、ヨルがロイドのために戦うと決める場面が、駆け引きと温かさを同時に見せる。暗殺者としての矜持と家族を守りたいという感情のせめぎ合いが、セリフの少なさと背景のシルエットで描かれる。その結果、偽りの家族であっても互いを気遣う行動が自然に生まれる。
類書との比較
『アドベンチャー・アクションのファミリー』である『怪盗ジョーカー』と異なり、スパイ要素を現代社会の制度に絡めたコメディとして描いている点で差異がある。特に、『ジョーカー』が単純な勝率とアイデア勝負に終始するのに対し、SPY×FAMILYは読心・暗殺・諜報という3つの専門性を家庭というフィルターで一緒に眺める。『GREAT PRETENDER』も詐欺を題材に驚きで魅せるが、『SPY×FAMILY』は安心感を同時に与える演出が秀逸で、敵が近づいても家族として共闘する構図に心地よさがある。
こんな人におすすめ
- 傭兵や刑事ではなく、情報任務を「家庭」として成立させたいと思っている人。
- 天才子役やトリックではなく、内面や日常のスリルを探したいマンガ読者。
- 仕事で表の顔と裏の顔を演じているビジネスパーソン。
- 静かに戦うヨルのような人を応援したい人。
感想
「家族とは何か」という問いを、笑いと少しの涙でぶつけてくる。ロイドがアーニャに「君はフリーになれるか」と問うシーンでは、アーニャがわざとふざけた返答をするため、よくあるセリフのように聞こえてしまうのだが、その裏では彼女が戦場から逃げた記憶と向き合う場面が映し出される。ヨルの戦闘では、暗殺者としての顔と「お姉さんとしての顔」のグラデーションをわずか数ページに詰め込むことで、読者を息つかせない。偽りの家族がバッジや任務ではなく、お互いに小さな気遣いを浮かべながら生活していることが、一見コミカルな作風を深めている。