レビュー
概要
『フルーツバスケットanother』1巻は、大ヒット作『フルーツバスケット』の“その後”を、海原高校を舞台に描く新しい物語です。時間軸は、透たちが海原高校を卒業してから数十年後。読者目線では懐かしさがある一方で、主人公は新しい世代なので、初見でも物語へ入りやすい構造になっています。
導入は、入学早々に遅刻して先生に見つかってしまう三苫彩葉の焦りから始まります。助けてくれたのは、不思議な雰囲気を持つ美少年。ここで「誰が、なぜ助けたのか」という小さな謎が置かれ、先へ引っ張られます。
読みどころ
1) “続編”なのに、入口が軽やか
この巻は、前作の重い設定や大きな事件をいきなり持ち込みません。まずは新しい学校生活の空気を作り、登場人物同士の距離を近づけていきます。前作を知っている人は背景がじわっと見えてくるし、知らない人は普通に学園ものとして読める。導線が丁寧です。
彩葉の「遅刻してしまった」という小さな事件から始めるのも、入口として上手いです。大げさな運命の出会いではなく、日常の焦りが、出会いの温度を決める。ここがやさしいです。
2) 海原高校という舞台が、記憶を呼び戻す
同じ学校、同じ廊下、同じ教室。同じ舞台なら、読者の頭の中に前作の記憶が立ち上がります。ただし、時間は進んでいる。懐かしさと新しさが同居する感覚こそ、この作品の気持ちよさです。
時間が飛んでいるぶん、世界は落ち着いているようにも見えます。けれど、彩葉の目線で描かれると、学校は相変わらず“初日が怖い場所”でもある。前作が持っていた「居場所の話」が、形を変えて残っているように感じます。
3) 主人公の“困りごと”が身近
彩葉のつまずきは、超常現象ではなく日常の焦りから始まります。うまく立ち回れない。助けられると余計に気になる。こういう小さな感情の揺れが、恋や友情の芽になります。ここが、読み手の共感の入口になります。
そして、助けてくれた「不思議な美少年」が、彩葉の生活にどんな変化を起こすのか。この巻は、関係が動き出す“予告編”としての役割が強いです。だからこそ、テンポが速すぎず、感情の動きに置いていかれにくいと感じました。
前作ファンへの嬉しさと、初見へのやさしさ
前作の読者は「この世界が続いている」こと自体がご褒美になります。一方で、ここで描かれるのは新しい関係性です。過去の知識がなくても、人物の魅力や会話のテンポで読ませる力があるので、入口として1巻から入っても問題ありません。
前作を知っている場合は、海原高校という場所だけでなく、「人と人の距離の詰め方」が同じ作家のものだと分かります。説明を増やさず、視線や間で伝える。空気が変わる瞬間を、さらっと置く。そういう読み味は健在です。
初見の場合は、まず彩葉の目線に寄り添えば大丈夫です。遅刻の焦り、助けられたときの気まずさ、気になる相手への引っかかり。高校生活の“最初の数日”の感情が軸になっているので、そこをつかむと物語に入れます。
1巻で注目したいポイント
この巻は大きな山場で驚かせるタイプではありません。その代わり、次の要素がじわじわ効いてきます。
- 彩葉が自分の立ち位置を探す過程
- 「助けてくれた側」の距離感の不思議さ
- 海原高校という舞台が持つ空気
ここが積み上がるほど、次の巻で起きる出来事の重さが増していくはずです。続編の1巻として、助走の取り方が丁寧だと感じました。
「another」というタイトルが示すもの
前作の読者は、どうしても“透たちの物語の続き”を期待してしまいます。ただ、この作品がやっているのは、同じ世界の別の角度です。海原高校という舞台を共有しながら、主人公の抱える不安や戸惑いは、いまの世代の色をしています。
1巻の時点では、彩葉の出発点は「助けられてしまった」という小さな引っかかりです。そこから、関係がどう育つのか。前作のように、心の傷がほどけていく話になるのか。期待を押しつけずに見守れる設計が、続編として誠実だと思います。
読む順番のおすすめ
前作を未読でも読めます。ただ、余韻を深くしたいなら、前作を読み終えた後に本作へ来るのがいちばん気持ちいいです。時間が飛んでいるぶん、前作のラストを知っているほど「世界が続いている」感覚が増します。逆に本作から入った場合は、海原高校という舞台が気になったタイミングで前作へ戻る、という読み方もできます。
こんな人におすすめ
- 『フルーツバスケット』の世界をもう一度味わいたい人
- 学園ものの恋と友情を、やさしい温度で読みたい人
- 続編を追うのが不安だが、置いていかれたくない人
「懐かしいのに新しい」という矛盾を、きちんと成立させている続編です。1巻はその土台づくりの巻で、静かに面白さが積み上がっていきます。