『使える脳の鍛え方』レビュー
著者: ピーター・ブラウン / ヘンリー・ローディガー / マーク・マクダニエル / 依田卓巳
出版社: NTT出版
¥2,587 ¥2,640(2%OFF)
著者: ピーター・ブラウン / ヘンリー・ローディガー / マーク・マクダニエル / 依田卓巳
出版社: NTT出版
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『使える脳の鍛え方』は、学習に関する“通説”にメスを入れ、認知心理学の実証研究に基づいた「本当に身につく学習法」を提示するタイプの本です。たとえば紹介文では、「教科書の再読」「同じ科目に集中して取り組む」「線引きを使い分ける」といった方法は、半ば正しいと信じられている。けれど実際は非効率だと述べられています。
勉強法の本はたくさんありますが、本書の良いところは、「気分が安心する学習」と「記憶に残る学習」が一致しない、という事実を軸に、習慣そのものを作り替えようとしてくる点です。努力しているのに伸びない人ほど、この“ズレ”に救われると思います。
教科書を何度も読み返すと、理解した気になれます。同じ科目に集中して取り組むと、やった感が出ます。でもそれは、脳にとっての負荷が低く、思い出す練習になりにくい、という指摘が効いてきます。勉強が「作業」になってしまう人には、特に響くはずです。
実証研究を背景にしているので、根性論ではなく、やり方の設計として読めます。学習法の本にありがちな「やればできる」ではなく、「やり方を変えれば、同じ時間でも伸びる」という方向に焦点がある。これは忙しい人ほどありがたいですよね。
本書が扱うのは、楽な勉強の代わりに「少しだけ苦しい勉強」を選ぶ、という発想です。学習中にうまく思い出せない、できない、つまずく。こうした感覚は不安になりますが、実はその負荷が記憶の定着に寄与する、という整理が入ってきます。勉強が嫌いになりやすい人ほど、「不安=失敗」ではないとわかるだけで、続け方が変わると思います。
紹介文にある通り、本書は認知心理学と教育をつなぐことを目指した研究者によるものです。だから、試験勉強だけでなく、仕事の研修や資格学習など、幅広い場面に持ち込めます。「覚える」ことを一度“技術”として捉え直したい人に向いています。
この本を読んでいちばん納得したのは、「気持ちよく勉強できる方法」が、そのまま結果に繋がるとは限らない、という点でした。再読や集中学習は、疲れにくいし、安心感があります。でも、その安心感が“錯覚”になることがある。ここを言語化してくれるだけでも、学習の迷子から抜け出せる人は多いと思います。
また、線引きやまとめノートのような方法が否定されがちなのではなく、「それだけに頼ると弱い」という形で整理されるのが現実的でした。勉強のやり方は、性格や環境で最適解が変わります。それでも、「思い出す練習」を増やす、「負荷を上手くかける」といった原則を知っていると、自分の学習をチューニングしやすくなる。
勉強が続かない人は、意志が弱いというより、設計が合っていないだけ、ということがあります。『使える脳の鍛え方』は、その設計を“科学の言葉”で組み直すための本でした。机に向かう時間を増やす前に、まず方法を変える。その順番を思い出させてくれる1冊です。
読み終えてから、個人的にやってみたくなったのは「再読を減らして、思い出す回数を増やす」ことです。たとえば、教科書を読む前に、先に目次や見出しだけ見て「この章で何が言えそうか」を自分の言葉で予想する。読んだ後は、数行でいいので要点を思い出して書く。こういう小さな“思い出す練習”を挟むだけで、学習が作業からトレーニングに変わります。
また、「同じ科目に集中する」よりも、複数の分野を適度に混ぜて練習する、という考え方も現実的でした。集中していると上達した気になれる一方で、テスト本番のように条件が変わると崩れやすい。本書は、その弱点を埋める方向へ学習を組み立て直します。勉強のセンスは生まれつきではなく、やり方の選択で変わる。その感覚を、根拠のある形で手渡してくれるのが良いところでした。
社会人の学び直しにも向いていると感じます。仕事をしながら勉強すると、まとまった時間が取りにくいので、つい再読で済ませがちです。でも、短い時間でも「思い出す練習」を差し込めば、学習の密度は上げられる。本書は、その現実的な方向に背中を押してくれます。努力を増やす前に、まずやり方を変える。シンプルですが、効きます。
たとえば語学なら、単語帳を眺め続けるより、思い出せなかった単語に印を付けて翌日に回す。資格学習なら、問題集を解いたあとに「なぜこの選択肢が違うのか」を自分の言葉で説明してみる。こういう“説明できるか”の確認は、再読では得にくい手応えです。本書は、勉強の成果を気分ではなく行動で測る視点をくれるので、学習に自信がない人ほど支えになると思いました。