レビュー
概要
『チェンソーマン 1』は、悪魔のポチタと共にデビルハンターとして借金取りに使われる、超貧乏な少年・デンジの物語です。生きるための選択肢がほとんどない「ド底辺の日々」が、ある残忍な裏切りで一変し、デンジは悪魔をその身に宿し、悪魔を狩る側へと引きずり出されます。
この1巻の強烈さは、ダークヒーローものの派手さより先に、「生きるって何だっけ?」という生々しい問いが刺さるところにあります。デンジは高尚な理念で戦い始めるのではなく、もっと単純で、切実で、みっともなくて、だからこそ否定しづらい欲望からスタートする。そこが読者を一気に引っ張るんですよね。
さらに1巻の中では、公安のデビルハンター・マキマと出会い、デンジの居場所と役割が強制的に塗り替えられていきます。早川アキやパワーといった強烈な人物が出てくることで、「悪魔を狩る」という仕事が、単なる能力バトルではなく、組織と生活の話として見えてくるのもポイントです。
読みどころ
1. どん底の生活描写が、非現実のバトルを現実に寄せる
「借金取りにこき使われる」という設定が、序盤の空気を決めています。悪魔が出てくる世界なのに、怖いのは悪魔より生活そのものだったりする。この足場があるからこそ、後半で起こる“変身”や“開幕”の派手さも、浮かずに重く感じられます。
2. ポチタとの関係が、単なる相棒を超えてくる
ポチタは、デンジのそばにいる悪魔です。でも、便利な武器でも、都合のいいマスコットでもありません。デンジがポチタと「共に」いる時間が描かれているからこそ、物語が一変した瞬間の痛みと熱が増します。ここが『チェンソーマン』の情緒の核だと思いました。
3. ダークヒーローの誕生が“爽快”だけで終わらない
本作は「新時代ダークヒーローアクション」と銘打たれています。けれど1巻の読後感は、スカッとするよりもザラッとします。悪魔を狩る側に回ったからといって、世界が優しくなるわけではない。むしろ、別の地獄が始まりそうです。気配はずっと漂っていて、怖いし面白い。
加えて、1巻の時点で「力を得ること」と「自由になること」がイコールではない、と感じさせるのが上手いです。強くなっても、守られるようになっても、条件や交換がついてくる。デンジが手に入れたものが、同時に首輪にもなる。この残酷さが、ダークヒーローの輪郭をくっきりさせています。
こんな人におすすめ
- ダークな設定でも、主人公の感情がリアルな作品を読みたい人
- バトル漫画に「生活」や「貧しさ」の匂いが欲しい人
- 相棒との関係性で心を掴まれるタイプの作品が好きな人
- 1巻から強い引力で、世界に引きずり込まれたい人
感想
『チェンソーマン 1』は、「残忍な裏切りで一変する」という言葉が、飾りではなく、体感として本当に重い作品でした。デンジの生活は最初から詰んでいます。明るい未来のために頑張るというより、今日を生き延びることが最優先だ。その状態に、さらに“裏切り”が重なる。読者は、主人公が踏ん張る余地のなさを前にして息が詰まります。
それでも、この物語が暗さだけで終わらないのは、デンジが自分の欲望を恥じないからだと思います。綺麗ごとではなく、でも弱さをごまかさない。だから、彼が悪魔を宿して悪魔を狩る側に回った瞬間が、ただの能力覚醒ではなく、「ここから先も生きる」という宣言に見えてくるんですよね。
1巻は、世界観の説明を丁寧に積み上げるタイプというより、読者の胸ぐらを掴んで引きずり込むタイプです。ポチタとの関係の温度、生活の匂い、そして開幕の暴力性。その全部が混ざって、「この先、どうなっても優しくはならなそう」という確信だけが残る。でも、その確信が面白い。ダークヒーローの誕生を、甘くない形で味わえる1巻でした。
個人的には、マキマに出会った後の空気がいちばん怖かったです。救われたように見えるのに、救われ方が不穏なんですよね。デンジが望んでいたのは「生き延びること」だったはずなのに、気づけば“人間として扱われる条件”を飲まされているようにも見える。ここに、ただのバトル漫画ではない鋭さがあります。
そして、ポチタの存在がずっと効いてくる。相棒という言葉では片付けたくない関係です。ポチタは、デンジの「欲しいもの」の輪郭を、静かに支えている。だからこそ、暴力的な場面が続いても、読者の心が完全に置いていかれない。1巻の段階で、残酷さと情緒が同居しているのが『チェンソーマン』の強さだと思いました。
早川アキの真面目さや、パワーの破天荒さが入ってくると、物語のテンポがさらに加速します。デンジの世界は広がるのに、安心は増えない。笑える場面があるのに、笑い方が少し歪む。この感情の揺れが、読後に独特の余韻を残します。ダークなアクションが好きな人はもちろん、「主人公の欲望が物語を動かす作品」を読みたい人にも刺さる1巻だと思います。