レビュー
概要
『FACTFULNESS』は、ハンス・ロスリングが「10の本能」と名付けた思い込みを順に解きほぐし、世界をデータで読み取る習慣を身につけさせるためのガイド。世界で100万部を超えるベストセラーで、2018年にはビル・ゲイツが大学生に配布し、オバマ元大統領も公に推薦した一冊。医師で統計家、Gapminder財団の立ち上げ人であるロスリングを父に、息子と娘が解説とメソッドを引き継ぎ、最新の統計とTEDトークで鍛えた話術で読者の思い込みに問いを立てる。日本語版には上杉周作+関美和の翻訳・加筆が入り、アジアの視点から見た具体的なデータの読み替えも含まれている。
読みどころ
本書は13問のクイズ形式でスタートし、常識と思っていた「子どもにワクチンは行き届いていない」「電気が使える人は少ない」といった設問の正答率の低さを見せることで、直感と現実とのギャップを体感させる。その後、ギャップ本能、ネガティブ本能、直線本能など10の本能ごとに「なぜ私たちはそう思い込むのか」を図表と実例で示し、いずれも数字やグラフによって補強される。たとえば「世界で電気が使える人の割合」「1歳児の予防接種の普及率」といった基本項目の最新統計を追うことで、数字を読んだだけで希望が見えるようになる。計算式を一切使わず、Gapminderのバブルチャートや動的に進化するグラフの話も繰り返し登場し、「数字は怖くない」というアントレプレナー精神も伝わってくる。
類書との比較
データを「直感」が判断する前に整理しようという点ではダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』に近い。だが、FACTFULNESSは世界情勢についての誤解を一つずつ丁寧に解体し、解説はストーリー性があり慶應義塾大学出版会の『改訂 世界の見方』などよりも具体的なクイズ形式を通して進む。Sapiensのような歴史の俯瞰よりも、Gapminderのようなリアルタイムの統計と共振するため、科学的素養が浅くても「何が事実か」を抑える実践的なツールとして使える。
こんな人におすすめ
世界のニュースを見て「未来は暗い」と感じる人、気候変動や貧困といった話題をどう自分で語るか迷っている人、企業や自治体でデータを説明する立場の人にぴったり。直感が「世界は崩壊する」と騒ぎ立てるときに、10の本能と13問のクイズを引き合いに出すことで、議論の地ならしができる。逆に統計を使いこなす人には既知の事例もあるかもしれないが、これほど平易に世界のデータに接する手引きは少ない。
感想
「世界の悲劇を語るだけ」の書籍とは違い、FACTFULNESSは希望を抱かせる。読後には「多くの指標は改善している」という確かな実感が湧き、テレビで流れる悲観的ニュースに囚われなくなる。特に第4章以降の教育・貧困・環境・エネルギー・人口の章は、各トピックの本当の減少傾向や、まだ解決されていない部分とのコントラストを丁寧に描き、事実によって世界を「正しく見る」習慣を繰り返し強化してくれる。数字が苦手な人でも読み通せる構成で、チームでも「FACTFULNESSゲーム」として使える。