レビュー
概要
『ドロヘドロ』1巻は、魔法使いに顔をトカゲへ変えられ、記憶まで失った男カイマンが、自分をこうした相手を探していくダークファンタジーです。舞台になるのは、人間が暮らす荒廃した街「ホール」と、魔法使いたちの世界。カイマンは友人のニカイドウと組み、魔法使いを捕まえては自分の口の中にいる謎の男に「こいつか」と判定させるという、かなり異様な方法で手がかりを追います。
この1巻の面白さは、設定の奇抜さだけではありません。人間の街と魔法使いの社会が最初からきっちり分かれていて、そのあいだに暴力と差別が常にある。その世界で、カイマンは被害者でありながら怪物のようにも見える存在です。つまり主人公自身が、この世界の気味悪さと哀しさを両方背負っています。だからグロテスクで笑えるのに、妙に切実でもあります。
読みどころ
- 最大の見どころは、ホラーとギャグと生活感が同じ温度で並ぶところです。カイマンが魔法使いを相手に容赦なく暴れる場面はかなり血なまぐさいのに、その直後に餃子を食べたり、ニカイドウの店でだらっとした会話が入ったりする。この落差が独特で、ただ暗いだけの作品にはならないです。
- カイマンとニカイドウの関係も1巻の大きな魅力です。 二人は恋愛関係ではなく、家族でもありません。もっと雑で強い相棒に見えます。 記憶を失ったカイマンを、ニカイドウは過剰に甘やかさず支えます。 この距離感なら、異様な世界の中にも読者が落ち着ける居場所を作れます。安心して読めます。
- 世界観の作り込みも強いです。ホールは単なるスラムではなく、魔法の実験台にされ続けた街として描かれます。一方の魔法使い側にも独自の階層や価値観があるので、単純な善悪対立では終わりません。1巻の時点で、両方の世界にそれぞれの生活臭があり、そこが物語へ厚みを与えています。
- そして、カイマンの口の中に現れる「もう一人」の存在が強い引きになります。自分は誰なのか。なぜこの顔になったのか。誰にやられたのか。1巻では答えがほとんど出ませんが、謎の見せ方がうまいので、ただの設定説明で終わらずに先を追いたくなります。
類書との比較
ダークファンタジーとしては『ベルセルク』や『BLAME!』のような重い世界観を思い出す人もいるはずです。ただ、『ドロヘドロ』はもっと雑多で汚く、同時に妙に生活感があります。英雄譚というより、ひどい世界で普通に腹を減らし、働き、食べる人たちの物語です。この地に足のついた気味悪さがかなり独特です。
また、怪物的な身体と失われた記憶を追う物語という意味では『亜人』や『寄生獣』と通じるものもありますが、本作はもっと混沌としています。論理で整ったサスペンスより、泥と煙と血の中で断片的に真相へ近づく感じが強いです。その雑味がむしろ癖になります。
こんな人におすすめ
- グロテスクさとユーモアが同居する漫画を読みたい人
- 作り込まれた異世界の空気を浴びたい人
- バディものが好きな人
- 謎解き要素のあるダークファンタジーを探している人
感想
読み直して改めて感じたのは、この作品は「変な漫画」では終わらないということです。もちろん世界は異常ですし、登場人物も常識的ではありません。けれど、カイマンが自分の正体を知りたいと思う切実さや、ニカイドウが彼を放っておけない感じはとても人間的です。その人間味があるから、どれだけ絵面が狂っていても物語に置いていかれません。
1巻の時点では情報量が多く、最初は少し戸惑うと思います。それでも読み進めると、この混沌自体が魅力だと分かってきます。説明しすぎません。ですが、謎の置き方はうまいです。暴力も笑いも生活感も全部まとめて1つの質感にしてしまう力があります。唯一無二の1巻と言っていいです。
しかも、この世界の異常さは背景設定にとどまりません。登場人物の服装、料理、建物、路地裏のゴミ、煙の匂いまで、全部が「ドロヘドロの世界」の手触りを作っています。世界観の情報がコマの隅にまで染みているので、ただ筋を追うだけでも密度が高いですし、読み返すと細部の面白さがどんどん増えていきます。
カイマンの正体という大きな謎がある一方で、ニカイドウとの食事や日常会話の場面が妙にあたたかいのも忘れがたいです。その温度差があるから、残酷な場面の痛みも強まりますし、二人の関係をもっと見たくなります。グロい、笑える、切ないが同時に成立する作品として、やはり導入巻からかなり完成度が高いです。
読み味は決して万人向けではありませんが、合う人には最初から深く刺さるはずです。整いすぎた世界観ではなく、汚れや雑音まで魅力になるタイプの作品を探しているなら、この1巻はかなり強い入口になります。
続きへの引きも非常に強いです。 忘れにくい1巻です。