レビュー
概要
ノンフィクション“スタンフォード式”の睡眠科学を漫画で紹介する一冊。西野精治が『スタンフォード式最高の睡眠』で提案した、光・食事・運動・時間帯の4つの入力を「睡眠スイッチ」とみなす考えをそのまま、ケーススタディ仕立てで再現している。主人公はIT企業に勤める佐藤。彼の不眠は、会議と夜更かしのパルスに押し潰されており、扇風機の風音、就寝前のブルーライト、帰宅後のプロジェクターから放たれる光までを、科学者らが「刺激のカクテル」と名付ける。
読みどころ
5章の「光のチューニング」はまさにその目玉。佐藤が睡眠不足でプレゼンを台無しにした後、研究者がキャビネットから取り出すのは「色温度ごとの照明図」と「朝の直射光マップ」。西野の言う「光の窓」が可視化され、それを使って社内ラボが人工的な朝の光を再現する場面は、日常的なオフィスライトを調整すればメラトニンを引き下げずに済むという実感に結びつく。第7章では、パンデミック下で増えた「ストレスの覚醒」を食事と運動でいかにリセットするか、医学的裏付け(Walker 2017, DOI:10.1093/aje/kwx349 など)を引用しながら、佐藤がささやかな朝の散歩を習慣化していくまでを描く。
類書との比較
『Why We Sleep』やオリジナルの『スタンフォード式最高の睡眠』が理論的な説明を重視するのに対し、本書は漫画を介して「眠りの条件を自分ごとに落とす」役割を負う。『睡眠負債』のように警告だけを散らすのではなく、四方山が描いたグラフィックは、同じスタンフォード睡眠研究のデータセットを視覚化した点で、Walkerの著作の補完材になる。『ナースのための睡眠医学』と比べても、職場や家庭にある刺激=現象を対話的に整理する構成が親しみやすい。
こんな人におすすめ
昼寝を1分でも欠かすと翌日が不調になる人。論文やデータに触れるのは苦手だが、寝る前の行動の順序を視覚的になぞって覚えたい人。睡眠文化を職場単位で広めるために、社員教育としてマンガを使いたい健康経営担当者にも。
感想
睡眠研究の難しい概念を、登場人物の「眠れない夜の心のノイズ」で描ききっているため、読了後にはWalkerだけでなく、GuilleminaultやCzeislerらが使ってきた「光とホルモンのシステム」が身近に感じられる。佐藤がオフィスの照明や携帯のブルーライトを自ら調整する描写は、自律的な睡眠観察—Apple WatchやOura Ringのようなウェアラブルを使った自己観測—を下敷きにしていて、テクノロジーと人間の関係を同時に扱うところが興味深い。