レビュー

概要

『呪術廻戦 1』は、類稀な身体能力を持つ高校生・虎杖悠仁が、病床の祖父の見舞いを日課にしているところから始まります。日常の温度感がある導入なのに、学校に眠る「呪物」の封印が解かれた瞬間、世界のルールが一気に変わる。その切り替えがとても鮮烈です。

そして何より、虎杖が「取り残された先輩を救う為、校舎へ乗り込む」という行動を選ぶのが、この1巻の核だと感じました。呪いだの怪物だのという非日常が押し寄せてきても、起点にあるのは“目の前の人を助けたい”という、かなり生々しい衝動なんですよね。

読みどころ

1. 日常からホラーへ落とすスピード

祖父の見舞い、学校生活、そして封印が解かれた「呪物」。この並べ方が上手くて、日常があるからこそ恐怖が刺さります。いきなり異世界に飛ばすのではなく、「いつもの場所」に怪物が現れる。だから怖いし、だから虎杖の決断も重く見える。

2. 主人公の身体性が、そのまま倫理の重さになる

虎杖は“強い”主人公です。でも、強いから無双して気持ち良い、という方向だけに流れません。むしろ、身体能力が高いことで「助けられるかもしれない」という可能性が生まれ、その可能性が彼を校舎へ向かわせる。強さが、無邪気な才能ではなく“責任”として立ち上がってくるのが印象的でした。

3. 「呪い」が感情のメタファーとして効いている

「呪物」という言い方自体が、すでに感情的です。見たくないもの、触れたくないもの、でも確かにそこにあるもの。そういう“濁り”が、怪物として具体化して襲ってくる。この設定のおかげで、バトルの緊張感と、人物の心理が自然に結びついていきます。

こんな人におすすめ

  • 学園もののテンポ感と、ホラーの緊張感を両方味わいたい人
  • 主人公が「なぜ戦うのか」を、行動で納得させてくれる作品が好きな人
  • 怖さがある作品でも、きちんと人間ドラマが欲しい人
  • 最初の1巻で世界観に引きずり込まれたい人

感想

この1巻を読んで、いちばん“刺さった”のは、虎杖のスタート地点がすごく現実的なところでした。祖父の見舞いが日課になっている高校生、という設定だけで、時間の使い方や価値観がにじみます。そこに「呪物」が入ってくることで、日常の延長線上で非日常が発火する。だから、恐怖が他人事になりにくい。

また、「先輩を救う為に校舎へ乗り込む」という一文で説明できるのに、読んだ時の体感はもっと重いです。助けたい気持ちは真っ直ぐなのに、踏み込んだ先は簡単には引き返せない場所で、選択が“人生の分岐”になってしまう。そんな危うさが、序盤からずっと漂っています。

バトル漫画の1巻って、世界観の説明で終わったり、キャラ紹介でバタついたりしがちですが、『呪術廻戦 1』は、説明よりもまず「怖い」「間に合わないかもしれない」という焦りで読ませてくるんですよね。読み終わったあとに残るのは、爽快感というより、胸の奥に沈む小さな重み。その重みが、次を開かせる力になっていました。

個人的に上手いなと思ったのは、虎杖の“やさしさ”が、きれい事ではなく行動の形で出てくる点です。祖父の見舞いを日課にしている、というだけで、彼が誰かの苦しさに触れていることがわかる。そこに怪物が現れた時、逃げるか、踏み込むか。虎杖は、踏み込む側の人間として描かれます。でもそれはヒーローの使命感というより、「目の前で取り残されている人がいる」という状況に耐えられない、という切実さに近い。だから読者も一緒に息が詰まるし、「やめて」と思いながらページをめくってしまうんですよね。

「呪物」という言葉も、ただの設定用語ではなく、日常の中にある“触れたくないもの”の象徴として効いていました。封印が解かれるまで、学校という場所は、ある意味で安全な箱です。そこが一瞬で壊れる。安全だと信じていた場所が、急に危険になる。この不安の作り方が、ホラーとして強いし、同時に現実の不安とも繋がる感覚があります。

読み終えると、最初のページにあった祖父の病室の空気が、別の意味で重く感じられるのも印象的でした。生と死、助けたい気持ち、そして“呪い”という暴力。1巻の中でそれらが同じ線で結ばれていくので、単なる導入巻ではなく、物語の芯が最初から見えている。だからこそ、続きが気になって止まりませんでした。

もう一点、1巻の強さは「校舎」という閉じた空間の使い方にもあると思います。外に助けを呼びに行くのではなく、虎杖が中へ入っていく。封印が解かれた“場所”に自分から踏み込む構図は、それだけで怖いですし、ページのめくりが止まらなくなる。最初から読者の心拍数を上げてくる、かなり容赦のない導入でした。

類稀な身体能力という設定も、いわゆる「強い主人公」で終わらず、物語の導火線として機能しています。虎杖が“できてしまう”からこそ、助けに行くという選択が現実味を持つし、だからこそ取り返しのつかなさも増す。1巻は、その危険なバランスをいきなり読者の目の前に置いてきます。日常と呪いがぶつかったとき、人はどこまで踏み込めるのか。その問いの立て方が鋭い1巻でした。

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