レビュー
概要
老舗和菓子屋「光月庵」で育った花岡七桜は、かつて同じ屋敷で起きた事件の当事者の娘だ。15年前、彼女の家族を奪った事件の真実を追いながら、七桜は今も香り高い和菓子を作り続ける。そんなある日、父親の敵である高月の息子・椿と再会し、見た目も性格も完璧な彼と、やけに親しくなるうちに、彼が実は敵の息子だという事実を知る。七桜の心は愛と憎しみの間で揺れ、椿の表情の奥に何かを隠していることに気づき始める。この第1巻では、復讐の序章として「嘘」「秘密」「菓子」の三つの要素が丁寧に絡み、甘くも苦い心理戦が始まっていく。
読みどころ
1) 和菓子の旨味と嘘が重なる世界観
練りきりや羊羹を作るシーンで、七桜が材料を計量しながら「本当の味」を探り、椿の好き嫌いを想起する描写が重なる。「椿は餡の中に何を感じるのか」という問いが、彼女の復讐心の中心として立ち上がり、実際の作業音や湯気がページに立ち上る。
2) 無言の視線と距離の演出
椿と向き合うときの静かなページ構成は、2人の立ち位置を象徴。言葉を交わさず、目線だけで妹を守っていた記憶と今が交錯する。椿が「君のことを知りたい」と言っているようで、それが復讐の罠なのか本心なのか、読者に揺さぶりを与える。
3) 過去と現在をつなぐ構成
15年前の事件がカット割りのなかでモノクロで差し込まれ、現在の会話とシンクロする構造。過去の「浴衣の色」「家紋」が象徴的に再登場し、真相がうっすら浮かび上がっている。
類書との比較
禁断の恋ながら復讐をテーマにする『凪のお暇』よりも暗く、『ダブル・ミーニング』のように隠された真実を片手で持つ。『有閑倶楽部』が家族の階級を描く一方で、『私たちはどうかしている』は「家族の血と秘密」が甘さを引き裂く。
こんな人におすすめ
- 甘い恋の裏で疾走する心理戦に惹かれる読者
- 和菓子の匂いを感じながら読めるマンガを探している人
- 復讐と許しの間を揺れる登場人物を見たい人
- 繊細な心理描写と断崖的な展開を同時に味わいたい人
感想
長年の恨みが少しずつ細工されていく様子に、胸がざわつく。七桜が椿の腕に触れるたびその距離感が変化し、読者も自然と息を止める。2人が未来へ向けて歩くのか、それとも過去に飲み込まれるのか、続巻への期待が募る。