レビュー
概要
『めしぬま。』1巻は、どこにでもいそうな地味な会社員・飯沼が、ただごはんを食べるだけで異様な色気と幸福感を放つグルメ漫画です。料理人の腕前や店の歴史を語る作品ではありません。主人公は目の前の食事へ夢中になり、無防備すぎる表情でうまそうに食べる。その一点で成立している漫画です。正直かなり変な作品ですが、1巻を読むと、この「食べ顔の圧」に引っ張られてページをめくってしまいます。
読みどころ
- 飯沼が食べるだけで場の空気が変わる、そのバカバカしさが最大の魅力です。静かな男が急に色っぽい顔になる落差が強いです。
- 料理や店は身近なものが多く、カツ丼、ラーメン、定食のような定番メニューが中心です。だから読者もすぐ腹が減ります。
- 周囲の人が飯沼の食べっぷりに妙な感情を抱いていく構図が面白いです。本人は無自覚なのに、周りだけがざわつきます。
- グルメ漫画としても、難しい知識より「一口目の幸福感」を大事にしているので読みやすいです。
本の具体的な内容
1巻の主人公・飯沼は、見た目も性格もかなり地味な会社員です。普段は口数も少なく、存在感も薄いのですが、ひとたび食事を前にすると別人のようになります。丼ものや定食を前にしたときの目つき、口元、汗、咀嚼の恍惚感がやたら濃く描かれ、その落差だけで一話が成立します。まずこの設定の一点突破ぶりが面白いです。
各話では特別な高級料理が出るわけではありません。むしろ、仕事帰りにふと食べる飯、店で頼む定番メニュー、ちょっと気になる一品のような日常的な食事が中心です。そのぶん、飯沼の反応の異常さが際立ちます。読者から見ると「そこまでか」と笑ってしまうのに、同時にその一口がやたらうまそうに見える。ギャグと飯テロがかなり近い距離で並んでいます。
また、1巻では飯沼本人より、彼を見ている周囲の視線も重要です。同僚や店の人が、地味な男が急に艶っぽい顔でごはんを食べる姿に戸惑ったり、妙に気になったりする。この「本人は普通に食べているだけなのに、まわりだけがざわつく」という構図が繰り返されることで、本作の変さがどんどん強くなります。
とはいえ、ネタ漫画で終わらないのは、食事そのものの描き方がちゃんとしているからです。湯気、衣の音、米のほぐれ方、タレの絡み方のような、ごく基本的な「うまそう」の積み重ねがある。だから飯沼の顔芸だけでなく、料理漫画としての快楽もしっかりあります。1巻は、この作品がただの色物ではないとわかる導入巻です。
しかも飯沼は、グルメ漫画の主人公にありがちな蘊蓄をほとんど語りません。食べ方の作法や食材の由来を説明するのではなく、ただ目の前の一皿に全力で没入するだけです。その単純さが逆に新鮮で、読む側も難しく考えず「この一口うまそうだな」という感覚に集中できます。食の知識より食欲そのものを増幅する漫画だと言えます。
類書との比較
グルメ漫画はたくさんありますが、『めしぬま。』は料理そのものより「食べる顔」にここまで偏っているのが珍しいです。『孤独のグルメ』のように店やメニューの発見を楽しむ作品とも違い、本作は飯沼という一人の男の食事顔を見に行く漫画だと言えます。
また、レシピ漫画でも人情食堂ものでもありません。日常食のうまさを、少しフェティッシュな方向へ極端に誇張する。その変な発明が本作の個性です。
こんな人におすすめ
- 飯テロ漫画が好きな人
- 少し変な発想のグルメ漫画を読みたい人
- 食べる描写そのものに色気や勢いを求める人
- 定番料理が無性に食べたくなる本を探している人
感想
1巻を読むと、まず飯沼の食べ顔のインパクトに笑ってしまいます。普段との落差が大きすぎて、最初はギャグとして読むしかありません。でも、そのギャグが何度も繰り返されるうちに、だんだん「この人は本当にうまそうに食べるな」と思えてきます。そこが不思議なところです。
料理の選び方も上手いです。高級すぎない、でも誰でも食べたくなる定番ばかりなので、読んでいてすぐ自分の食欲につながります。食レポの言葉を重ねるより、飯沼の表情と動きで押し切るから、理屈抜きに腹が減ります。
変な漫画なのに、読み終えると「ちゃんとごはんを食べたい」と思わせる力がある。その意味ではかなり真っ当なグルメ漫画でもあります。色物に見えて、食事の幸福感を真正面から描いている。そんなズレ方が面白い1巻でした。
周囲の人が飯沼の食べっぷりに妙な感情を抱いていくのも、単なるお色気ギャグでは終わりません。食べることにここまで集中している人を見ると、少し羨ましくもなるからです。仕事や人間関係で疲れているときほど、こういう無心の一口が魅力的に見える。その感覚まで含めて、かなりよくできた飯テロ漫画だと思いました。