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レビュー

概要

『アンデッドガール・マーダーファルス』1巻は、怪物と人間が同じ世界に存在する19世紀末を舞台にした、推理色の強い怪奇活劇です。見世物として消費されていた半人半鬼の津軽真一が、首だけの姿にされた不死の探偵・輪堂鴉夜と出会い、彼女の身体を奪った犯人を追う旅へ出るところから話が動きます。

この作品の面白さは、怪物を倒す話というより、怪物の論理を使って事件を解く話になっている点です。吸血鬼、人狼、怪盗、名探偵といったゴシックな題材が並ぶのに、中心にあるのは「その現場で何が起きたか」を筋道立てて考えるミステリの楽しさです。1巻はその世界観と探偵役3人の関係を立ち上げる導入巻として機能しています。

読みどころ

まず強いのは、鴉夜と津軽の会話です。鴉夜は頭脳で押し、津軽は身体と悪ふざけで押す。この温度差があるので、暗い怪談になりすぎません。さらに、メイドの静句が2人の間を冷静に締めることで、探偵一行としてのバランスが最初から整っています。事件の前提を説明する場面でも会話が死なず、世界観の飲み込みやすさにつながっています。

次に面白いのは、怪物をただの異形として扱わないことです。吸血鬼なら吸血鬼の習性があり、人狼なら人狼の共同体がある。そのルールを踏まえた上で「ではこの殺人はどう成立したのか」と考えるため、怪奇設定が飾りでは終わりません。特殊な世界観なのに、推理の手順そのものはかなり正統派です。

また、1巻はシリーズの長い旅の入口としてもよくできています。最初から全部を説明するのではなく、鴉夜の過去、津軽の立場、怪物社会と人間社会の摩擦を少しずつ見せる。そのため読者は置いていかれず、それでいて先を知りたくなります。設定の大きさを、導入の気持ちよさへ変えるのが上手いです。

加えて、1巻は「怖さ」と「軽さ」の配分がかなり巧みです。怪物の話であり、猟奇的な事件も出てくるのに、会話のテンポがいいので重く沈みすぎません。逆に軽口が挟まることで、不意に差し込まれる残酷さが際立つ。エンタメとして読みやすいのに、怪奇の温度はちゃんと残ります。

類書との比較

怪物と探偵を組み合わせた作品は多いですが、本作はバトルより推理の比重が高いぶん、読み味がかなり違います。たとえば『虚構推理』が言葉で怪異を捌く面白さを持つのに対し、こちらは事件現場の条件整理や犯行成立の検討が中心です。怪異の設定をロジックへ変換する感覚が強いです。

また、西洋怪奇文学への目配せは多いものの、引用ネタを知っていないと楽しめない作りではありません。むしろ「吸血鬼や怪盗がいる世界で、本気で推理をやったらどうなるか」という発想そのものが面白い。伝承の知識がなくても、ミステリ好きなら十分入れます。

こんな人におすすめ

  • 怪談より推理寄りの怪奇作品を読みたい人
  • テンポのいいバディものが好きな人
  • ゴシックな設定とロジックの両方を楽しみたい人
  • 長編シリーズの強い導入巻を探している人

感想

この1巻を読んでまず感じたのは、設定の派手さに対して推理の姿勢がとても真面目だということでした。怪物が出てくる時点で何でもありに見えますが、実際には「その条件なら何が可能で、何が不可能か」をかなり丁寧に積み上げていきます。だから奇抜なのに雑ではありません。

個人的には、鴉夜が万能の天才として描かれすぎていない点も良かったです。頭は切れるけれど、身体を失っている以上、自分だけでは動けない。津軽は戦えるけれど、謎解きでは鴉夜の視点が要る。この役割分担があるので、3人が組む意味も最初からはっきりしています。

1巻の段階では大きな物語の入口に過ぎませんが、「この世界ではどんな事件が起きうるのか」「この3人でどこまで行けるのか」という期待をかなり強く残します。怪異活劇としても、連作ミステリとしても、シリーズの顔をしっかり見せる導入巻でした。

特に印象に残るのは、怪物側の事情を「人間から見た異常」で片づけないところです。習性、誇り、共同体、偏見がそれぞれあるから、事件は単なる化け物退治になりません。異形の存在をロジックで理解しようとする姿勢が一貫しているので、怪奇作品として読むだけでなく、他者をどう見るかという話としても余韻が残ります。

1巻だけでも十分面白いですが、この先にホームズやルパンのような有名モチーフが本格的に絡んでくることを思うと、ここでの世界づくりの丁寧さが効いてきます。シリーズの入口として必要な情報量と、続きを読みたくなる推進力がきちんと両立した1冊でした。

派手な設定だけで押す作品ではなく、異形の存在と人間社会の境目をどう扱うかまで考えさせるところに、この作品の持続力があります。ミステリとして読んでも、怪奇活劇として読んでも、入口の時点でかなり手応えのある巻でした。

事件解決の快感と、怪物たちの居場所をめぐる切実さが両立しているので、単なる設定勝ちで終わらないのも大きいです。シリーズものの1巻として、かなり信用できる始まりでした。

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    佐々木 健太

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