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レビュー

概要

『ハピネス』1巻は、平凡な高校生だった岡崎誠が、ある夜を境に吸血鬼の側へ引きずり込まれていくホラー青春漫画です。押見修造の作品らしく、単に怪物になる恐怖だけでなく、「自分が今までいた日常へ戻れなくなる感覚」が非常に生々しく描かれます。血を求める衝動、光への怯え、家族や同級生との距離の変化が、派手な説明ではなく身体感覚として押し寄せてくるのがこの1巻の強さです。

吸血鬼もの自体は珍しくありませんが、本作の特徴は、変身後の万能感よりも、変化に気づいてしまった少年の不安と嫌悪を前面に出していることです。誠は強くなったことを喜ぶのではなく、まず自分が人間でなくなっていくことに怯えます。この入り方があるから、ホラーとしての強度も、青春ものとしての切実さも出ています。

読みどころ

1巻の読みどころは、吸血鬼化を「力の獲得」ではなく「日常の破綻」として描いていることです。誠は自分の身体が変わってしまったことを理解しても、すぐにはその事実を受け止められません。朝日が怖い、食べ物がうまく感じられない、血の匂いに過剰に反応してしまう。そうした細かな異変の積み重ねが、本作を単なる怪奇漫画ではなくしています。

また、押見修造らしい視線のいやらしさも効いています。学校という日常空間が、少し角度を変えるだけで気味の悪い場所に見えてくる。友人や家族との会話も、誠の内側が変わってしまったことで別の意味を帯びます。読者は「周囲は何も変わっていないのに、主人公だけが決定的にずれた」状態をずっと味わうことになります。この居心地の悪さがかなり強いです。

さらに、本作では吸血鬼そのものがロマンチックに処理されません。吸血の衝動も、夜の逃避行も、美しい呪いというより生々しい危機として出てきます。だからこそ、1巻の段階から世界観に甘さがありません。人を襲ってしまうかもしれない、自分で自分を制御できないかもしれない、その恐怖がずっとつきまといます。

その一方で、十代の閉塞感をうまく重ねているのもポイントです。学校での立ち位置、家での居心地の悪さ、説明しづらい苛立ちや孤独。その延長線上に吸血鬼化が置かれているので、非現実の設定なのに妙に感情移入してしまいます。押見修造が得意な「自意識の気持ち悪さ」とホラーの相性がかなりいい作品です。

類書との比較

人間が怪物側へ変わっていく物語としては『東京喰種』を思い出す人も多いと思いますが、『ハピネス』は戦いや組織のルールより、もっと個人の気持ち悪さに寄っています。また、同じ押見修造作品の『惡の華』が思春期の逸脱を現実のまま押し広げた作品だとすれば、本作はその逸脱を吸血鬼という形で外側へ可視化したような読み味があります。ホラーの皮をかぶった自意識漫画として読むと、かなり独特です。

こんな人におすすめ

吸血鬼ものが好きな人はもちろん、青春の息苦しさをホラーとして描いた作品を読みたい人にも向いています。気持ちよく敵を倒す話ではなく、自分の内側が壊れていく感覚を追うタイプなので、じわじわ不安になる作品が好きな人ほど相性がいいです。

感想

読んでいて印象に残ったのは、誠が「怪物になった自分」を受け入れる方向ではなく、まず拒絶しようとするところでした。この抵抗があるから、ただ暗いだけの話になりません。人間として残りたい気持ちと、もう戻れないかもしれない感覚の引っ張り合いが、ページをめくる手を止めにくくします。

1巻はまだ導入ですが、押見修造がこの設定で何を描きたいのかはかなり伝わります。血や夜のイメージ以上に、「自分の中の気持ち悪さから逃げられない」話として強い開幕巻でした。

加えて、本作は恐怖の描き方に無駄な派手さがありません。誰かが大声で叫ぶとか、大量の血しぶきで驚かせるというより、日常の手触りが少しずつ壊れていくこと自体を怖がらせます。だから読後に残るのも、一瞬のショックではなく、じわじわした不安です。この感触は押見修造作品の中でもかなり独特で、ホラー好きにも自意識もの好きにも刺さりやすいと思います。

1巻の時点ではまだ世界の全貌は見えません。それでも、「この先どうなるのか」以上に、「この主人公はこの状態で持つのか」が気になります。設定の謎より人物の精神が前に出る作りなので、続きを読む動機が強い。吸血鬼漫画の入口として優秀です。さらに、押見修造の作家性を味わう最初の一冊としてもかなり印象的です。

特に、十代の孤独と怪物性をここまで自然につないでみせるのは巧みです。超常設定を借りながら、やっていることはとても人間的で、だからこそ怖い。ホラーでありながら「思春期の話」としても強く残る1巻でした。

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    佐々木 健太

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