Kindleセール開催中

360冊 がお得に購入可能 最大 95%OFF

レビュー

概要

『新装版 BLAME!』第1巻は、異形の巨大都市に生きる孤高のサイボーグ・霧亥が、人類の存在証明(Net Terminal Genes)の痕跡を探して彷徨う旅の始まりを描いたSF漫画です。巨大な都市の迷宮を舞台に、「構造体に捕食されるような空間」をほぼセリフのない演出で表現し、細密な描線と淡い光のコントラストによって、むしろページをめくるだけで空気の冷たさと湿度を感じる読み味。第1巻では、霧亥が都市の中で「自己増殖するシステム」と対峙し、ひとりの少女・シボを守りながら、生命とは何かという問いに向き合う準備が整えられています。

読みどころ

1) 空間感覚の圧倒的表現

弐瓶が描く都市は、「斜め45度の柱」が幾何学的に連続し、どこか非ユークリッド的にねじれる構造をもっています。主人公が一歩進むごとに遠景が屈曲し、カメラのような視点移動がコマの構成で再現されていて、読む側が自身の立ち位置を見失うような没入感を演出。1巻中盤で紹介される「ゲート」を巡る戦闘では、戦場そのものが再構築されていき、霧亥が天井の穴を利用して背景を抜ける描写は圧倒的です。

2) セリフのない語りと静謐な造形

会話は最小限で、霧亥が電脳端末と交信するときも「音声」ではなく「コードの連なり」を見せている。視覚的な冗長性を排しているからこそ、むしろ感情が否応なく立ち上がってくる。花火のような光が遠景を貫き、視線が一点に集まる場面で、読者は霧亥の思考のゆらぎを読み取る。目立つのは、音声の代わりに「電流のうねり」が描かれる点で、常に未来的な静寂感が保たれる。

3) シボとの緊張関係

まだ幼いシボの存在は、人間性の残滓を示す装置になっていて、霧亥は彼女を「守る」ことで自分の存在意義を確かめる。彼女が都市の高層部で機械の柱に絡まれているところを助けるシーンは、壊れた壁面に描かれた手の線から生命の儚さが滲み出しており、シボの「見る」仕草だけで背景の息遣いが変わる。これまでの非人間的なサイボーグ像ではなく、シボとの対話により霧亥の心の端っこがわずかに軟らかくなる様子が描かれており、人間性のカケラが差し込まれる瞬間が静かに積み重なります。

類書との比較

『BLAME!』は、典型的なサイバーパンクと比べると、ウィリアム・ギブスンの重厚さよりも、川井憲次的な音圧と静謐さが同居する。小林よしのり『アキラ』のバイク暴走と違い、都市そのものがプレイヤーの敵になる点では重なるが、霧亥の沈黙は鉄の壁が落ち着くまで待ち、稲妻で見開いたコマの輝きは『AKIRA』より静かに光る。『攻殻機動隊』がハードウェアとソフトウェアの融合を描いたのに対し、『BLAME!』は空間と構造そのものの異常を描くことで、サイバーパンク的な身体の議論を構造的に昇華させている。建築的な圧迫感に耐えうる希少な視覚体験であり、他作品の考察に比べて「空間が主役」という点で類を見ない。

こんな人におすすめ

  • 無名だが気鋭のSF絵柄で「世界の構造」を味わいたい読者
  • 言葉少なに空間を通じて哲学を読みたい人
  • 巨大都市を描いた美術的なイメージスケッチを好む人
  • 未来の機械文明と生命の交差を寝かせるように追いたい読者

感想

読了後、長時間の静かなページが耳鳴りのように残るような独特の余韻がある。霧亥の歩く軌跡に合わせて都市が変形し、シボと接するたびに“人間の片鱗”が見え隠れし、そこに哀しみを感じて立ちすくむ。それが必然的に冒険譚を超えて“何を守るのか”という哲学的な問いにつながってくるので、1巻を読み終えたときに必ず「自分はどこに立っているのか」をふたたび確かめるようになります。屈折した印象を持ちつつも、筆が空間を削るたびにそこに命のような光が灯る描写に、新装版でもう一度引き戻された一冊です。

この本が登場する記事(1件)

本の虫達

要約・書評・レビューから学術的考察まで、今話題の本から知識を深めるための情報メディア

検索

ライター一覧

  • 高橋 啓介

    高橋 啓介

    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
  • 森田 美優

    森田 美優

    出版社勤務を経てフリーライターに。小説からビジネス書、漫画まで幅広く読む雑食系読書家。Z世代の視点から現代的な読書の楽しみ方を発信。
  • 西村 陸

    西村 陸

    京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。
  • 佐々木 健太

    佐々木 健太

    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

Social Links

このサイトについて

※ 当サイトはアフィリエイトプログラムに参加しています。