レビュー
概要
親を亡くし心に穴を抱える高校生・柊未央が、学園祭準備を通じてクラスメイトの「壁」を少しずつ溶かす様を描く群像劇。内向的な主人公が、自分よりも他人の痛みを敏感に感じ取り、クラスの空気が「どこかおかしい」と気づいたところから物語が動き出す。ぎこちない笑いや沈黙を丁寧に拾い、少しの勇気を積み上げていく日常が続く。
読みどころ
- 文化祭準備のミーティングで、柊が「そこをなんとか」と言葉にならない願いを吐き出す場面では、コマ内の空白がその心の間を表現していて、読者も呼吸を合わせるようなリズムが生まれる。
- 彼女がクラスの中で孤立しながらも、反対側にいる誰かの悲しさに気づく描写が、背景と色トーンで繊細に示されている。特に音を消したようなページの構成が印象的だ。
- 終盤では、柊が瑠衣との小さな対話を通じて、お互いの傷に寄り添う姿勢を見せ、「人に頼ること」への抵抗が崩れる様子が描かれる。
類書との比較
『orange』のような過去と向き合いながら未来を見せる構成に近いが、本作は準備の段階でじっくりと人間関係を溶かしていく。『凪のお暇』ほど明るくはなく、むしろ『3月のライオン』のように静かな日常の中に重さがしのぶ。
こんな人におすすめ
- 学園の中で他人との距離を測り直したい読者。
- 心の揺れをコマの空白で読ませるような作品が好きな方。
- ゆっくりとしたテンポで感情の解凍を見るのが好みの人。
感想
彼女の「そこをなんとか」という言葉が何度も循環し、同年代の自分たちにとっての不出来や失敗を許す力になっていた。1巻を読んで、誰かを思いやる気持ちをそっと取り戻したような読後感が残る。