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レビュー

概要

『HELLSING(1)』は、英国に巣食う吸血鬼や怪物を秘密裏に処理するヘルシング機関と、その切り札である吸血鬼アーカードを描くダークアクションです。導入となる1巻では、化け物退治の組織ものとして始まりながら、ただの退魔アクションでは終わらない異様なテンションが最初から全開です。敵よりも味方のほうがよほど恐ろしく見える。その倒錯した魅力が、読み始めてすぐに伝わってきます。

アーカードは人間を守る側にいるにもかかわらず、まったくヒーローらしくありません。圧倒的に強く、残酷で、楽しそうに敵を蹂躙する。けれど、その不気味さこそがこの作品の中心です。1巻は、彼が“正義の怪物”としてどんな存在なのかを読者に刻み込む巻だと言えます。

読みどころ

最大の読みどころは、アーカードが戦うたびに、敵味方の境界そのものが揺らぐことです。彼は人類側の兵器ですが、振る舞いは怪物そのものです。相手を圧倒する場面には爽快感があるのに、同時に「こんなものを使っていいのか」という不安も残る。この両義性が、本作を単純な勧善懲悪から遠ざけています。

平野耕太の画面づくりも圧巻です。黒の塗り、影の置き方、血の飛び方、銃の構え、帽子のつばの角度に至るまで、全部がやりすぎなくらい決まっている。情報量は多いのに、コマの印象が散らばらず、むしろひとつの“様式美”としてまとまっているので、暴力描写が強くても読みにくさはありません。1巻の時点で、すでに作家の美学が完成しています。

インテグラとセラスの配置も見逃せません。冷徹に見えるインテグラは、組織を背負う人間としての矜持を持ち、セラスは人間から怪物側へ半歩踏み込んでしまった存在として揺れています。アーカードひとりが強いだけではなく、人間と怪物の境目に立つ人物たちがいるから、世界観に厚みが出る。1巻はその関係性の原型を見せる巻でもあります。

また、作品全体を包むゴシックと軍事の混ざり方も独特です。吸血鬼、教会、秘密機関、銃器、英国趣味が全部同じ画面に入っているのに、ちぐはぐになりません。好き嫌いが分かれそうなくらい癖は強いのに、その癖こそが魅力になっている。ほかの作品では代えがたい一冊です。

1巻の時点でセラスの扱いがしっかり効いているのも良いところです。人間だった側の視点が入ることで、アーカードやヘルシング機関の異常さがより際立ちます。もし全員が最初から怪物めいた感覚で動いていたら、ここまでの倒錯した魅力は出ません。人間の側から見た恐怖があるからこそ、アーカードの格好よさも危うさも増しています。

会話の癖もかなり強いのですが、その癖が作品世界の温度を作っています。気取っていて、芝居がかっていて、妙に威圧的。それでいて決め台詞としてちゃんと機能するので、読み終わると独特のフレーズが頭に残る。台詞回しまで含めて、強い作家性を持った作品です。

類書との比較

吸血鬼ものは数多くありますが、『HELLSING』は耽美さと軍事的な殺伐さをここまで高い密度で混ぜている点でかなり特異です。ホラーでもあり、ガンアクションでもあり、宗教戦争めいた空気もある。設定だけでなく画面の圧で読ませるタイプの作品なので、雰囲気重視のダークファンタジーが好きな人には特に合います。

絵と台詞と設定の全部が濃いので、軽く読めるタイプではありません。ただ、その濃さを求めている読者には強烈に刺さります。万人向けではないぶん、合う人には決定版のような1巻です。

こんな人におすすめ

  • 強烈なキャラクターと画面の圧で読ませる漫画が好きな人。
  • 吸血鬼ものを、もっと凶暴で物騒な方向から味わいたい読者。
  • ゴシック、銃、怪物の組み合わせに惹かれる人。

感想

1巻を読んでまず圧倒されたのは、アーカードが“主人公らしさ”からかなり遠い位置にいることでした。正しいことを言うわけでもなく、やさしいわけでもない。けれど、彼が出てくるだけで画面が持っていかれる。この圧倒的な存在感があるから、シリーズ全体のトーンが最初の巻からぶれません。

ダークファンタジーやホラーが好きな人にはもちろん勧めやすいですが、何より“漫画の癖の強さ”を楽しめる人に向いています。読みやすい優等生的な作品ではありません。その代わり、一度このテンションに合うと、ほかでは代えがたい魅力があります。シリーズの入口として非常に濃い1巻です。

雰囲気に酔える作品が好きな人なら、1巻だけでも十分に満足できるはずです。アクションの迫力、怪物の不気味さ、英国趣味の重さがきれいに混ざっていて、シリーズの最初として申し分ない密度がありました。

吸血鬼ものの定番を知りたい人にも勧められますが、むしろ“ここまでやるのか”という濃さを味わいたい人にこそ向いています。

読後には、爽快感より先に“強い作品を読んだ”という圧が残ります。その感触こそが『HELLSING』らしさで、好みが合えば長く忘れにくい1巻になるはずです。

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