レビュー
概要
『弁護士のくず(1)』は、型破りで下品、言動も無茶苦茶で「人間のくず」とまで呼ばれる弁護士・九頭元人(くず もとひと)が、次々と舞い込む依頼を引き受け、弁護士らしからぬ方法で解決していくブラック・コメディです。第1巻の面白さは、九頭が“破天荒なだけの人”では終わらないところにあります。常識人の側から見れば最悪なのに、事件の本質や、人が隠している本音を見抜く洞察は鋭い。だから読者は、嫌悪と納得の間で揺さぶられます。
舞台は白石誠法律事務所。人権派弁護士として知られる所長・白石のもとに、若手弁護士の武田真実が入所し、九頭とコンビを組む場面が増えていきます。武田は正義感が強く、依頼人を信じたいタイプ。一方の九頭は、依頼人の“きれいな顔”を最初から信用しない。その価値観の衝突が、1巻からすでに濃いです。
第1巻の読みどころ
1) 九頭の「嫌な言動」と「仕事の精度」が同居している
九頭は、態度だけ見ると擁護しにくいタイプです。軽口、下ネタ、挑発、煙に巻く嘘話。まともな職業倫理からは外れて見える。ところが事件と向き合う場面では、法律の解釈や判断は案外まともで、必要なところを外さない。ここが怖いし面白い。
「嫌な奴なのに、仕事はできる」という現実の人物像が、そのまま漫画のエンジンになっています。読者は九頭を好きになりきれないのに、ページをめくる手が止まらない。第1巻は、その矛盾を意図的に作っているように感じました。
2) 武田の“まっすぐさ”が、読者の視点になる
九頭の世界観は、慣れていないとしんどいです。そこで武田が効きます。武田は常識的で、依頼人の嘘や隠し事に騙されやすい一面があり、つい正邪を決めつけてしまうこともある。それでも、読者が感情移入しやすいのは武田のほうです。
武田が九頭に振り回され、怒り、反発し、それでも九頭の“弁護士としての実力”は認めざるを得ない。第1巻は、このプロセスがあるから、九頭の過激さがただの悪趣味になりません。読者は武田と一緒に、「嫌だけど、見てしまう」位置に立たされます。
3) 「法律」と「人間の汚さ」を同時に描く、後味の悪さ
九頭の扱う事件は、正論だけでは片付かないタイプが多い。依頼人にも事情があり、相手側にも事情がある。勝ち負けの外側に、人間のズルさ、弱さ、見栄が残る。そこに踏み込むからこそ、作品はブラック・コメディとして成立します。
第1巻の段階から、読後にスカッとしない回が出てくるのが特徴です。九頭は勝たせるのに、気持ちよく勝たせてくれない。読者に「それで良いのか」と考えさせる余白が残ります。
感想
第1巻を読んでいちばん強く残ったのは、九頭が「正義」を語らないことでした。彼は、善人を救うために動くというより、目の前の事件を“勝ち筋”に落とし込む。その過程で、依頼人の嘘も暴くし、こちら側の甘さも切り捨てる。結果として救われる人が出る、という順番です。
この順番が、好き嫌いを分けると思います。ただ、現実の相談現場を想像すると、「依頼人の言い分をそのまま信じるのは危ない」というのも分かる。武田が揺さぶられるのは、読者が普段持っている“善意への期待”が揺らぐからです。
法律ものが好きで、きれいごとだけではない人間ドラマを読みたい人に向く第1巻です。読み終わると、九頭の言動にムッとしつつ、次の依頼も見たくなる。その感情の引力が、この作品の強さだと思います。
1巻を読み進めるコツ(九頭に腹が立つ人向け)
九頭の言動は、最初はかなりノイズになります。そこでおすすめなのは、「九頭が何を言ったか」より、「武田が何に反応したか」を追う読み方です。武田は九頭を「クズさん」と呼び、非常識さに怒り、時に殴ってでも止めようとする。その反応が、読者の倫理観と近いので、作品の温度を調整してくれます。
逆に言えば、第1巻は九頭を“理解する”巻というより、「理解したくない相手と組まされる」巻です。職場の相性が最悪でも、事件は待ってくれない。依頼人は感情を持っていて、嘘もつくし、隠し事もする。そこで武田は、自分の正義感だけでは足りない場面にぶつかり、九頭のやり方の一部を否応なく目撃します。
「弁護士もの」としての面白さ
白石誠法律事務所は、人権派として少年事件の付添活動に熱心で、いわゆる「金にならない事件」も引き受ける方針です。だからこそ、依頼は綺麗なものばかりではないし、正解も1つではない。第1巻はこの方針が背景にあるので、九頭のブラックな言動も、ただの悪趣味ではなく「綺麗に扱えない現場」の表現として読めます。
九頭自身も、見た目や言動は“ペルソナ(仮面)”のように記号化されていて、逆にそこから時折漏れる真面目さが刺さります。娘・美月に向ける言葉が優しかったり、武田が暴走しそうなときに弁護士の責務を説いたり。第1巻は、そのギャップの種を多めにまいてきます。
感想(この1巻が好きな人のタイプ)
勧善懲悪のリーガルものが好きな人には、正直合わないかもしれません。ただ、仕事や人間関係の現実を知っているほど、「正しい人が正しい方法で勝つ」だけでは終わらない話として面白く読めると思います。九頭は嫌な奴なのに、事件の核心に触れるときだけ妙に正確で、だからこそ怖い。第1巻は、その怖さを“笑える形”で提示してくるのが上手いです。