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レビュー

概要

『きょうは会社休みます。』1巻は、恋愛経験のないまま33歳になった主人公・青石花笑が、思いがけないきっかけで年下の大学生と距離を縮め、自分の人生が止まっていたことに気づいていく恋愛漫画です。遅い初恋の話と聞くと甘いラブコメを想像しがちですが、本作の魅力はむしろ「恋をきっかけに、自分をどう見直すか」にあります。

花笑は仕事をきちんとこなし、目立った問題も起こさず生きています。でも、それは前に進んでいる状態というより、傷つかないように安全圏へ留まっている状態でもあります。そこへ恋愛が入ってくることで、服装、振る舞い、職場での立ち位置、結婚や年齢への意識まで一気に揺れ始める。この揺れの描き方がかなりうまく、恋愛漫画なのに「人生の再起動」の話として読めます。

読みどころ

最大の読みどころは、花笑の自意識がとてもリアルなことです。若い相手にどう見られているのか、恋愛未経験だと知られたらどう思われるのか、職場の人に気づかれたら気まずいのではないか。こうした不安は大事件ではないのに本人には深刻で、その温度がよく出ています。大げさに悲劇化しないぶん、読者も自分の過去や現在と重ねやすいです。

年下の田之倉との関係も、本作を読みやすくしているポイントです。単なる王子様像に収まらない人物で、花笑の不器用さを笑いものにせず、しかし過剰に持ち上げもしない。その自然さがあるから、花笑が少しずつ心をほどいていく過程に説得力が出ます。恋愛に慣れていない大人同士らしいぎこちなさもあり、可笑しさと切なさの両方が生まれています。

職場パートも意外と重要です。会社は花笑にとって生活の基盤であり、同時に「いつもの自分」を演じる場所でもあります。そこに恋愛が入り込むことで、普段は見えていなかった人間関係や自分の振る舞いが変わって見える。仕事漫画として濃いわけではありませんが、働く女性が恋愛だけで生活しているわけではないという現実感が、物語の足腰を強くしています。

また、この1巻は「今さら」の感覚を丁寧に扱います。若いころに通り過ぎたと思っていたものが、30代になってから始まることもある。周囲と比べれば遅く見えても、本人にとってはそこが出発点です。本作はその出遅れ感を笑いにも変えつつ、恥ではなく人生の一部として扱ってくれるので、読む側も肩の力が抜けます。

類書との比較

同じ大人の恋愛漫画でも、派手な駆け引きや感情の爆発を見せる作品とはかなり違います。『きょうは会社休みます。』は声を荒げず、劇的な事件も多くありません。その代わり、日常のなかで自分が少しずつ変わっていく感覚を細かく拾います。恋愛によって人生全体の見え方が変わる話として、じわっと効くタイプです。

また、遅い初恋をテーマにしていても、「未経験=欠けている」という見方に寄らないのがいいところです。花笑の戸惑いを可笑しく描きつつも、決して見下さない。読者の年齢や経験の多寡に関係なく、誰にでも人生の始め直しはあると思わせてくれる点で、かなり懐の深い作品だと思います。

こんな人におすすめ

  • 大人の恋愛漫画を読みたいが、過度にキラキラした話は苦手な人
  • 仕事や年齢の事情まで含めて恋愛を描く作品が好きな人
  • 「今さら始めるのは遅い」と感じてしまうことがある人
  • 恋愛を通じて自己認識が変わる物語を読みたい人

感想

この1巻でいちばん効くのは、花笑が恋をしたから急に別人になるわけではないところです。怖がりなままだし、思い込みも強いし、気まずさから変な行動もする。でも、その不器用さのまま少しずつ前に出るから応援したくなる。完璧なヒロインではなく、現実にいそうな大人として描かれているのが大きいです。

読後に残るのは、恋愛そのものより「止まっていた時間が動き出す感覚」です。新しい服を選ぶ。誰かの言葉が気になる。明日の予定が少し違って見える。そんな小さな変化が人生の温度を上げていく。そういう変化を、恥ずかしさごと肯定してくれる作品です。

恋愛漫画をあまり読まない人にも勧めやすい1巻です。大人が読むと刺さる焦りや照れがありつつ、空気は重すぎません。「今からでも間に合うかもしれない」と思えるやさしさがあるので、人生の再スタートを描く作品としてもかなり印象に残ります。

若いころの恋愛漫画とは違う位置から読めるので、大人になってから少女漫画へ戻りたい人にも向いています。

初恋をやり直す話というより、自分の人生を取り戻す話として読むとさらに味わいが深まります。

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    佐々木 健太

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