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レビュー

概要

『ジョジョの奇妙な冒険 第1部 ファントムブラッド カラー版』1巻は、ジョースター家の跡取りとして育ったジョナサン・ジョースターと、彼の家に入り込んだディオ・ブランドーの対立から始まる物語だ。舞台は19世紀末のイギリス。事故をきっかけにジョースター家へ迎えられたディオは、恩義に報いるどころか、家と財産を奪うために少しずつ周囲を支配していく。序盤は後年のスタンド戦ではなく、ゴシック小説のような不穏さと、少年同士の確執がじわじわ膨らむサスペンスとして読むのが正しい。

1巻で特に重要なのは、ジョナサンが単なる「正義のいい子」ではなく、何度踏みにじられても立ち上がる人物として描かれていることだ。ディオに飼い犬ダニーを傷つけられ、エリナとの関係まで汚され、父ジョージの信頼も揺らぐ。それでも感情だけで暴発せず、「何が起きているのか」を見極めようとする姿勢が、この後のジョースター家の精神性の原点になっている。ここを押さえて読むと、シリーズ全体の始まりとしての重みがよくわかる。

この巻の読みどころ

まず面白いのは、ディオが最初から怪物的な力で押し切るのではなく、人の弱さを見抜いて足場を固めていくことだ。勉強も運動もでき、礼儀も身につけているからこそ、周囲は彼の悪意に気づきにくい。ジョナサンだけが異物感を覚えるのに、それをうまく証明できない。この「相手が強い」のではなく「周囲に信じてもらえない」怖さが、1巻のサスペンスを支えている。

次に、石仮面の存在がただのオカルト小道具ではなく、ジョースター家とディオの関係を決定的にねじ曲げる装置として置かれている点も見逃せない。最初は古物趣味の延長に見えるのに、読み進めるほど「これに触れた瞬間、話のルールが変わる」とわかってくる。1巻はその入口までを描く巻で、日常の因縁が怪奇譚に変質する瞬間の手触りが非常にうまい。

カラー版ならではの価値も大きい。荒木飛呂彦の初期作は、擬音やポーズの派手さが話題になりやすいが、実際には服飾、家具、館の内装といった画面づくりの情報量がかなり多い。カラーになると、ジョースター邸の気品とディオの不穏さ、血の赤、石仮面の不気味さがひと目で伝わり、作品の「怪しい豪華さ」がぐっとわかりやすくなる。白黒版を読んだことがある人でも、1部はカラーで読む価値がある。

他の人気バトル漫画と違うところ

『ジョジョ』というと超能力バトルの印象が強いが、第1部1巻はむしろ「名家に入り込んだ侵入者」と「育ちのよさゆえに汚さへ即応できない少年」の心理戦が中心だ。ここが『北斗の拳』や『ドラゴンボール』のような即戦力型の導入とはかなり違う。身体能力や特殊能力のインフレで読ませる前に、人間関係の不穏さで引っ張るから、シリーズの原点として独特の味がある。

また、後の『ジョジョ』らしさにつながる「決め台詞」「大仰な表現」「極端な構図」もすでにこの巻で芽を出している。ただしまだ洗練しすぎていないぶん、若い作者の熱量がむき出しで、それが一部の魅力になっている。シリーズを遡って読むと、この巻が単なる原点ではなく、すでに完成された空気を持っていたことに驚くはずだ。

こんな人におすすめ

シリーズ未読で順番に迷う人には、やはり1部から入るのがいちばん納得できる。特に、ディオという存在がなぜここまで特別視されるのかを知りたい人には、この巻が必須だ。逆に、最初からハイスピードな能力戦だけを求める人は、導入の陰湿さに少し驚くかもしれない。ただ、その陰湿さこそが後の爆発力につながる。

歴史もの、ゴシックホラー、因縁劇が好きな人にも向いている。ジョナサンとディオの関係は単なるライバル関係ではなく、育ち、階級、嫉妬、執着が絡み合ったかなり濃いドラマだ。そこに石仮面という異物が入ることで、現実的な嫌がらせの話が一気に伝奇へ傾いていく。この滑らかな転調は、何度読んでもうまい。

感想

この1巻を読むと、「ジョジョの始まり」はいきなり奇抜な能力戦ではなく、嫌な奴が本当に嫌な奴として強烈に機能しているところから始まったのだとよくわかる。ディオの嫌らしさは徹底していて、読んでいて腹が立つが、そのぶんジョナサンが踏みとどまる場面の価値が大きい。正しさがすぐ勝つ話ではないからこそ、ジョナサンのまっすぐさが物語として立ち上がる。

シリーズの看板だけを知っている人ほど、この巻の地味な不穏さと重厚さは新鮮だと思う。後の壮大な系譜を知っていると、「ここから全部始まるのか」と感慨も強い。カラー版はその起点を読みやすくしてくれるので、初読はもちろん再読にも勧めやすい1冊だった。

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    佐々木 健太

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