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レビュー

概要

『惡の華』1巻は、中学生の春日高男が、憧れているクラスメイト佐伯奈々子の体操着を衝動的に盗んでしまったことから始まる思春期漫画です。その現場を仲村佐和に目撃され、春日は秘密を握られたまま、日常をじわじわ壊されていきます。事件そのものは小さいのに、本人にとっては世界が終わるくらい大きい。この「思春期の恥の大きさ」を徹底して描くのが、1巻の異様な迫力につながっています。

学校、教室、友達、好きな子といった普通の中学生活の枠組みを使いながら、本作はそこに収まりきらない自意識の気持ち悪さをまっすぐ出してきます。春日は文学に逃げ場を見つけている少年ですが、その内面の高ぶりは、立派な教養ではなく、むしろどうにも処理しきれない衝動として出てきます。そこを仲村が容赦なく暴くため、読者もかなり落ち着かない気分にさせられます。

読みどころ

1巻の読みどころは、春日の「やってはいけないことをしてしまった」という意識が、単なる反省で終わらないところです。もちろん罪悪感はありますが、それと同じくらい、自分の中にこんな欲望や衝動があったことへの戸惑いがあります。だから春日は、体操着を返して終わり、とはなりません。仲村に脅されるほど、自分の醜さを直視させられていく。その過程がかなり痛いです。

仲村佐和という人物の怖さも1巻から際立っています。彼女は悪役としてわかりやすく描かれるのではなく、学校やクラスの「普通」の空気そのものを嫌悪している人物として出てきます。だから春日を責めるのも、正義感というより、同類を見つけたときの執着に近い。春日にとっては恐怖の対象なのに、同時にどこか目をそらせない存在です。このねじれた引力が、作品全体の不穏さを支えています。

また、本作は大事件ではなく「恥」をここまで大きく描くのがうまいです。大人から見れば取り返しがつくように見えることでも、中学生本人には全人生を左右するほど重大に感じられる。その感覚が誇張ではなく、体温を持って伝わります。読んでいて苦しいのに、どこか身に覚えがある。この感触が本作を忘れにくいものにしています。

押見修造の絵も重要です。人物の表情が大きく崩れるわけではないのに、視線や立ち姿だけで不安がにじみます。教室や廊下といった日常の空間が、登場人物の意識ひとつで急に息苦しく見える。派手な演出に頼らず、じわじわ狂っていく感じを作るのがとてもうまいです。

類書との比較

押見修造作品の中でも、『血の轍』が家族の圧迫感を描き、『ハピネス』が異形化した自意識を描く作品だとすれば、『惡の華』は思春期の羞恥そのものを剥き出しにした作品です。学園ものとしては恋愛漫画の構図を借りているのに、読後感はまったく甘くありません。青春漫画の形を使いながら、読者を安心させない点でかなり独特です。

こんな人におすすめ

普通の学園青春ものでは物足りない人、思春期の自意識の気持ち悪さまできちんと描いた作品を読みたい人、読んでいて心がざわつく漫画を好む人に向いています。爽やかさはかなり少ないですが、そのぶん心に残る強さがあります。

感想

この1巻を読んで感じるのは、「恥を知られてしまう怖さ」が、怪物や暴力よりずっと直接的に刺さるということでした。春日は特別な悪人ではありません。むしろ、どこにでもいる真面目そうな少年です。だからこそ、その内側にある歪みが露出したときの衝撃が大きい。読者も安全圏にいられません。

青春の痛みをここまで居心地悪く、でも目を離せない形にした1巻はなかなかありません。読みやすいとは言いにくいですが、だからこそ強い作品です。

しかも本作は、春日をただ裁いて終わる話ではありません。彼の弱さや醜さを描きながら、その一方で「なぜそんなことをしてしまったのか」まで追いかけます。だから不快なのに、読み手も切り捨てきれない。人を簡単に善悪で割れないこと自体が、この漫画の不穏さにつながっています。そこが単なる問題作で終わらない理由だと思います。

1巻の段階でこれほど空気が重いのに、先を読まずにいられないのは、仲村と春日の関係がまだ名前を持っていないからです。支配なのか共犯なのか、救いなのか破滅なのかがわからない。この曖昧さが非常に強く、読者を不安定なまま次巻へ連れていきます。思春期漫画としても読めますし、心理ホラーとしてもかなり忘れがたい導入巻です。

しかも、作品全体に流れるボードレール的な退廃の匂いが、中学生の閉じた世界に意外なほど似合っています。背伸びした文学趣味が単なる飾りで終わらず、春日の自意識そのものになっているからです。青春の恥と文学的な酔いがこんなに危うく結びつく1巻はそう多くありません。

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    佐々木 健太

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