レビュー
概要
『じゃじゃ馬グルーミン★UP! 1』は、進学校に通っていた久世駿平が、家を飛び出して北海道の牧場へ流れ着くところから始まる漫画です。そこで彼は、渡会牧場の家族や馬たちと関わりながら、これまで知らなかった労働、土地の空気、人との距離感を学んでいきます。競馬漫画というより、牧場を舞台にした青春群像劇の入口と言ったほうが近い1巻です。
1巻の時点では、派手なレースや大きな勝負よりも、牧場の生活にどう入っていくかが中心です。馬の世話、家族経営の空気、北海道の広さ、よそ者としての居心地の悪さ。その地道な要素が積み上がるからこそ、後の成長や人間関係が効いてきます。
読みどころ
まず面白いのは、主人公の駿平が最初から格好よく振る舞えないところです。逃げるように北海道へ来たため、何か強い目的があるわけではありません。牧場の生活にもすぐ順応できませんし、馬についての知識も乏しい。でも、何も知らない外の人間だからこそ、読者も一緒にこの世界へ入っていけます。
また、馬が単なる背景ではなく、生活の中心として描かれているのも大きいです。世話をする手間、気性の違い、仕事としての責任がきちんと出てきます。競走馬の世界を「夢」だけで描かず、まず育てる現場の感覚から見せるので、物語に独特の説得力があります。
牧場の4姉妹との関係も1巻の魅力です。恋愛漫画のように最初から分かりやすく配置するのではなく、家族の中に入り込んでいく気まずさや、相手を測りかねる距離感が先にあります。だから、会話の端や小さなやり取りがちゃんと効いてきます。駿平の視点で読むと、北海道の牧場そのものが1つの未知の世界になっています。
類書との比較
競馬漫画というと、勝負の駆け引きや騎手の世界を前面に出す作品も多いですが、この作品はもっと生活寄りです。馬に関わる人たちが毎日何をしているのか、家族経営の牧場にどんなリズムがあるのかを丁寧に見せるため、スポーツ漫画とは違う魅力があります。
青春漫画として見ると、都会から別の土地へ流れ着いた主人公が、人との関わりの中で変わっていく構造が強いです。ただし、過度にきれいな成長物語にはしません。駿平の未熟さや牧場側の厳しさがちゃんと残るので、物語が甘くなりすぎません。
こんな人におすすめ
- 競馬そのものより、馬を育てる現場に興味がある人
- 地方の仕事や共同体の空気が出る漫画を読みたい人
- 青春ものでも、少し地に足のついた話が好きな人
- ゆうきまさみ作品の人間関係の運びが好きな人
感想
1巻を読むと、この作品の中心は「馬」だけではなく、「行き場を失った人が別の場所で息をし直すこと」なのだと感じます。駿平は立派な目的を持って来たわけではありません。でも、牧場の仕事や人間関係の中で、少しずつ立ち方を覚えていく。その不器用さがかなり良いです。
派手な見せ場はまだ少ないのに、続きが気になるのは、牧場の世界がちゃんと生きて見えるからです。ここで誰が何を背負って暮らしているのか、駿平がどこまで関わっていくのかが自然と気になります。長編の入口として、とても掴みのいい1巻です。
1巻は、北海道の空気そのものが物語の魅力になっているのも大きいです。広い土地、寒さ、牧場の朝の早さ、都会育ちの感覚では測れない仕事の重さ。こうしたものが背景ではなく生活として描かれるので、読者も駿平と一緒に環境の違いを体で受け止める感覚になります。舞台設定の強さだけで引っ張るのではなく、そこで暮らす人たちの手触りまで入っているのが良いです。
また、牧場の家族たちが最初から主人公に都合よく優しくしない点も効いています。よそ者に対する距離、仕事に対する厳しさ、家族内の関係性が少しずつ見えてくるため、単なる居候ものの軽さに流れません。駿平が何となく居着くのではなく、ここで役に立てるのか、自分の居場所をつくれるのかがちゃんと問われています。
1巻としての役割
この1巻は、レース漫画のプロローグというより、北海道の牧場へ読者を住まわせるための巻です。馬のいる生活、人の距離、労働の現実を先に見せるから、その後のドラマが軽くなりません。のんびりした空気もありつつ、先の広がりがしっかり見える導入巻です。
競馬や馬産に詳しくなくても入りやすいのは、この1巻が専門知識より生活の変化を軸にしているからです。駿平が何を見て、何に戸惑い、どこで少し前に進むのかが丁寧なので、続刊で世界が広がっていく土台としてかなり優秀です。長く付き合える作品の入口として安心して勧められます。
派手な勝負や劇的な逆転がすぐ来る作品ではありませんが、その分だけ人物と場所がじわじわ効いてきます。北海道の牧場という舞台を借りた青春ものとしても、馬に関わる仕事の入口を描く作品としても、かなり密度のある導入巻です。気づけば次巻でこの世界にもう一度戻りたくなります。
長編の入口として、とても信頼できる1冊です。