レビュー
概要
『Another(1)』は、夜見山北中学で起きた「26年前の出来事」を起点に、“受け入れられない死”が日常を侵食していく学園ホラーです。物語の核にあるのは、かつて三年三組にいた「ミサキ」という人気者の生徒の事故死と、その後にクラスが選んだ異様な対処です。
同級生たちは、突然の死を受け入れられず、「ミサキは生きている」フリをし続ける。ところが卒業式の日、集合写真に本来いるはずのないミサキが写っていた――。第1巻は、この伝説の輪郭を見せながら、現在の時間軸へ読者を引き込みます。
読みどころ
1) ホラーの核が「怪物」ではなく「集団の選択」にある
この作品の怖さは、幽霊や怪物が飛び出す瞬間だけではありません。むしろ、クラスが「死を否認する」という選択をしてしまった点にあります。
死が受け入れられないことは、感情として理解できます。だからこそ怖い。良心的な人間でも、集団になった瞬間、現実を捻じ曲げる決断をしてしまう。第1巻は、その“あり得てしまう怖さ”を、伝説として語るだけで終わらせず、手触りのある恐怖として提示します。
2) 「ミサキ」という言葉が、記号として機能する
作品は「ミサキ」という言葉を、ただの固有名詞として扱いません。死者の名前であり、同時に“触れてはいけない何か”を指す記号になります。
その結果、会話の中で「ミサキ」という言葉が出るだけで空気が変わる。名前がトリガーになる設計です。ホラーは、何かが起きる前の時間が一番怖い。この作品は、その時間を言葉で作ります。
3) 漫画としての強みは、視線と沈黙の演出
原作のミステリ的な背筋の冷え方を、漫画は「視線」と「沈黙」で置き換えます。笑わない表情、視線の向き、教室の距離感。情報の足りないコマがあるから、読者は勝手に補完してしまう。
第1巻は、説明の量を増やして安心させるのではなく、情報の欠落で不安を増やすほうへ寄せます。この引き算が効いています。
「伝説」が現実へ侵食する怖さ
この作品は、怪異の存在を最初から断言しません。代わりに、「集合写真にいるはずのないミサキが写っていた」という噂の形で恐怖を置きます。噂は、事実かどうかが曖昧なぶん強い。学校という閉じた環境では特に、噂がルールを上書きします。
第1巻を読んで怖いのは、怪異よりも、クラスが選んだ「ミサキは生きているフリ」という集団の対処です。死を否認するという選択は、優しさにも見えます。でも、それを続けるためには、誰かが嘘をつき続け、誰かが空気を読んで黙り続ける必要がある。つまり、日常の運用コストが上がります。そのコストが限界を超えたときに何が起きるのか、という不穏さが第1巻の段階から立ち上がっています。
感想(ホラーとミステリの境界)
第1巻は、恐怖の正体を見せすぎないのに、読者の中に「これは偶然ではない」という確信を残します。学園ホラーとして読める一方で、「なぜそんなフリをしたのか」「写真は何を意味するのか」という問いが残るので、ミステリとしても引っ張られます。
この“境界”があるから、怖いのに先を読みたくなる。第1巻は、伝説を提示して終わりではなく、伝説が現実へ侵食する入口を作り切っていました。
特に効いているのは、「三年三組」という具体のクラスが名指しされるところです。学校の怪談は匿名のほうが広がりやすいのに、この作品は逆に場所とクラスを固定します。固定されると、読者は逃げ場を失います。「その教室の、その席で」起きることになるからです。第1巻は、伝説を“どこかの噂”から“ここで起きること”へ変換するのがうまいと感じました。
「生きているフリ」を続けるという設定は、優しさの形にも見える一方で、いつか破綻する脆さもあります。誰かがルールを破った瞬間、空気が壊れる。誰かが触れてはいけないことへ手を伸ばした瞬間、歪みが表に出る。その破綻の予感が、第1巻の恐怖の燃料になっています。
感想
この本を読んで印象に残ったのは、恐怖が「事件」より先に「ルール」として立ち上がる点です。学校という、毎日同じ時間割を繰り返す場所に、破綻したルールが紛れ込む。その違和感が、背中へ張り付くような怖さになります。
また、第1巻の時点で、伝説の核心を出し切りません。26年前の出来事を提示しつつ、「なぜそんなフリをしたのか」「写真に写ったのは何なのか」といった疑問を残して次へ繋げる。ホラーとミステリの境界を行き来する導入として、非常に良いスタートだと感じました。
こんな人におすすめ
- 学園ホラーの中でも、集団心理の怖さが好きな人
- “伝説”が現実へ侵食していくタイプの物語を読みたい人
- 原作の雰囲気を、漫画の演出で味わいたい人