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レビュー

概要

『多重人格探偵サイコ(1)』は、バラバラ殺人、カニバリズム殺人、フラワー殺人など、猟奇事件が連鎖する中で、多重人格探偵・雨宮一彦が事件へ挑むサスペンスです。タイトルからして刺激が強いですが、実際に第1巻は“読む側の体力”を試してきます。

ただし、グロテスクさで押し切る作品ではありません。猟奇性は記号ではなく、現代の病理を描くための表現として配置されています。第1巻は、その「病理」を単なる説教にせず、事件として読ませることに力を使っています。

読みどころ

1) 事件の異常さが、日常の延長に置かれている

バラバラ、カニバリズム、フラワーと、言葉だけを見ると非現実に感じます。ところが作品は、異常を異世界へ隔離しません。街の空気、報道、周囲の視線といった“現実の手触り”の上に、異常が乗っている。

結果として怖いのは、犯人のキャラクター性というより、事件が社会に与えるノイズです。噂が増幅し、恐怖が消費され、情報が歪む。その過程も含めて「猟奇事件」として描くので、読後に残る嫌なリアリティが強いです。

2) 「多重人格探偵」という設定が、推理の装置になる

雨宮一彦の“多重人格”は、単なる奇抜さではなく、捜査や推理の進め方に影響を与える設定です。視点が揺れ、確信が割れ、判断が分岐する。その揺れが、物語の推進力にもなります。

探偵が万能だと、事件は謎解きのパズルになります。一方で、探偵自身が不安定だと、読者は「正しい推理」ではなく「破綻しない解釈」を探し始める。この作品は、その読み方へ自然に誘導してきます。

3) 田島昭宇の画が、“不快さ”を情報として伝える

猟奇ものは、文章で説明すると陳腐になりやすい領域です。第1巻は、画の説得力でそれを回避します。目を背けたくなる表現がある一方で、必要以上に煽りすぎないバランスもあります。

重要なのは、不快さが「怖がらせるため」だけに使われていない点です。 読者が感じる嫌悪は、そのまま事件の異常性の理解に繋がる。 画が情報になっているから、ページをめくるスピードが落ち、思考が止まりません。

第1巻の引き(金額のない“コスト”が積み上がる)

この作品で描かれる猟奇事件は、現実感があるぶん「後片付け」の匂いがします。事件が起きたあと、捜査が動き、報道が騒ぎ、人々の不安が増幅する。そこに払われるコストは金額では測れませんが、確実に社会の温度を下げます。

第1巻は、その温度の下がり方を「事件の連鎖」として見せます。 1つの事件が終わっても、次の気配は消えない。 だから読者は、安心して“解決”を待てません。サスペンスとして強い導入です。

注意点(読む前に知っておきたいこと)

バラバラ殺人、カニバリズム殺人など、扱う題材はかなり強いです。刺激を求めて読むと逆に疲れます。第1巻は、気持ちよく謎が解けるタイプのサスペンスというより、嫌な現実を直視させるタイプのサスペンスに寄っています。

その分、読み終えたときに残るのは「怖かった」より「考えさせられた」です。事件の異常さの向こうに、社会の歪みや個人の孤立が透けて見える。重さごと読みたい人には向きます。

また、「多重人格探偵」という看板から、派手なキャラクター劇を想像する人もいると思います。第1巻の時点では、むしろ事件の圧が強く、探偵側も万能ではない。だから読者は“安心して任せる”より、“一緒に巻き込まれる”側に置かれます。この居心地の悪さが、この作品の持ち味です。

第1巻で事件が連鎖するテンポも、読み手に逃げ道を与えません。事件の異常さを理解した瞬間に、次の異常が来る。だから、頭が追いつく前に感情が揺さぶられる。この“追い立てられる感じ”が、サイコというタイトルにふさわしい読書体験を作っています。

雨宮一彦が事件へ挑む、という骨格は王道ですが、扱う題材が過激な分、正義の気持ちよさは薄いです。そこが逆にリアルで、現実の事件は「解決したら終わり」ではない感覚に近い。第1巻は、その後味の悪さまで含めて設計されています。

感想

この本を読んで感じたのは、猟奇事件を“見世物”として消費するのではなく、現代の病理として咀嚼させる強さです。第1巻の段階で、事件の種類だけでも十分に過剰なのに、物語はそこで終わりません。探偵の設定、社会の空気、絵の圧が重なって、読み手の感情を逃がさない構造になっています。

軽い気持ちで読むと疲れます。逆に、サスペンスを「気持ちよく謎解きしたい」というより、「気持ち悪さを含めて理解したい」と思う人には刺さります。第1巻は、その方向性をはっきり示すスタートでした。

こんな人におすすめ

  • 猟奇サスペンスを、刺激だけでなくテーマとして読みたい人
  • “探偵が不安定”な物語構造が好きな人
  • 田島昭宇の画でしか出ない空気感を味わいたい人

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