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レビュー

概要

『最近、地球が暑くてクマってます。』という題名どおり、シロクマ親子の語りを通して、地球温暖化を自分ごととして引き寄せます。見た目こそやわらかいものの、中身は意外に鋭く、個人の善意だけで気候危機を止めるのが無理だという現実を、かなりはっきり伝えます。

この本の特徴は、恐怖や罪悪感だけで読者を動かそうとしないことです。写真や対話を交えながら笑いを残しつつ、それでも論点は甘くしません。レジ袋有料化のような象徴的な施策に飛びつくだけでは不十分で、本当に必要なのは温室効果ガスを大きく減らす制度やエネルギー転換だという話へ、きちんと連れていきます。読みやすいのに、ごまかしが少ない本です。

本の具体的な内容

本書の導入でまず印象に残るのは、温暖化対策としてよく挙げられるレジ袋有料化に、かなり挑発的な角度から切り込むところです。作中では、たとえレジ袋がまったく使われなくなっても、削減できる温室効果ガスはごく小さい割合にすぎないと示されます。この出だしのうまさは、読者の意識を「身近なエコ行動をしていれば十分」という安心から一度引き離す点にあります。気候危機を生活のマナー問題ではなく、排出構造の問題として見直させるのです。

そこから本書は、北極に住むシロクマ親子の視点を使いながら、温暖化の影響を順々に見せていきます。氷が減ることで生息環境が失われる話はもちろんですが、本書は「クマがかわいそう」で終わりません。海面上昇や異常気象の影響は人間社会にも直結しており、日本に住む多くの人々も決して他人事ではないと示します。海面上昇の被害を受けうる人口の話題や、日本が温暖化被害に脆弱な地域を多く抱えることなどが提示され、北極の話と日本の暮らしがつながっていきます。

面白いのは、温暖化を単なる知識問題として説明しないことです。本書には「世界一わかりやすくて楽しい地球温暖化対策本」という宣伝文句がありますが、それは単に図解が多いという意味ではありません。笑える言い回しや対話形式のおかげで、読者は防御的にならずに読み進められます。その一方で、内容はかなり政治的でもあります。個人の節電や買い物の工夫には限界があり、本当に大きな効果を持つのは、発電方法を変えること、制度や法律を整えること、企業や政府の意思決定を変えることだと、はっきり指摘しているからです。

この「たった1つの方法」という本書のメッセージも重要です。ここでいう1つの方法は、万能の生活術ではありません。むしろ、個々の人が罪悪感ベースで我慢を積み重ねることではなく、社会全体の仕組みを変える方向へ意思を集めることだと読めます。つまり、行動の単位を「マイボトルを持つ」から「どの政策や制度を支持するか」に引き上げる本なのです。環境本でここまで制度的視点を前面に出すのは、読みやすい体裁の本としてはかなり珍しいと思います。

また、江守正多さんの関与も大きいと感じました。科学コミュニケーションの場では、正確さを保つほど難解になり、分かりやすさを優先すると雑になることが少なくありません。本書は、そのバランスをうまく取っています。温暖化の因果や排出削減の論点を単純化しすぎず、それでいて専門書のような距離感にもならない。だから、環境問題に初めて触れる読者にも届きやすいです。

さらに、本書は子ども向けの環境絵本のようにも見えるのですが、実際には大人のほうが刺さるかもしれません。というのも、大人ほど「できることから始めよう」という言葉で思考停止しやすいからです。本書は、もちろん個人の行動を否定しません。しかし、それだけでは足りないと何度も思い出させます。家庭でできることと、社会で変えるべきことを混同しない。この整理だけでも、温暖化に関する会話の質はかなり上がるはずです。

読み進めるうちに分かるのは、本書が「やさしい本」であると同時に、「甘くない本」でもあることです。かわいいシロクマと写真の力で入口を広げつつ、出口では制度、エネルギー、政治参加へ視線を向けさせる。この構造があるから、読み終わったあとに「いい話だった」で終わりにくいのです。行動のスケールを一段上げるための環境本として、かなり完成度が高いと思います。

前半を対話とユーモアで進め、後半で論点を具体策へ着地させる構成もよくできています。気候危機の入門書は、危機感だけが残って次に何を考えればよいか分からなくなりがちですが、本書はその空白をあまり残しません。

類書との比較

気候変動の本には、IPCCや炭素循環を正面から解説する本と、日常のエコ習慣を並べる実用本があります。本書はその中間に位置しながら、むしろ両者の弱点を補っています。専門書ほど敷居は高くないのに、生活ハック本ほど論点を矮小化しません。

特に、個人の節約術や節電術で話を終わらせず、制度とエネルギーの話まで持っていく点は大きな特徴です。子どもと読める見た目なのに、中身はかなり本格的な気候コミュニケーション本だと言えます。

こんな人におすすめ

  • 気候変動に関心はあるが、専門書は重くて手が伸びない人
  • 家庭や学校で、子どもと一緒に温暖化を話すきっかけがほしい人
  • エコ行動をしているのに、どこか手応えの薄さを感じている人

感想

この本を読んでよかったのは、温暖化への向き合い方が「私がもっと我慢する」一択ではないと整理できたことです。もちろん生活の中でできる工夫は大切ですが、それだけで問題の中心には届かない。本書はその不都合な事実を、読者が受け止めやすい形で差し出します。

とくに、レジ袋の話を入口にして、最終的に制度や発電方法の転換へ論点を運ぶ流れは見事でした。環境本はしばしば正しさの押しつけになりがちですが、本書はユーモアを保ちながら視野を広げてくれます。子ども向けのように見えて、大人の思考の癖をほぐす本でした。読み終わったあとに会話の質まで変えるタイプの本です。気候危機の本を1冊だけ勧めるなら、こういう入口はかなり有効だと思います。

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    佐々木 健太

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