レビュー
概要
DTMでトラックを仕上げる際に存在感と迫力を与える「音圧」と、ミキシングでの奥行きを両立させるプロセスを紹介する解説本。音圧の理論、ラウドネス制作、マルチバンドコンプレッサー、アナログ感の付与手法を、セットアップからマスタリングの出口までステップごとに扱い、DVD-ROMにはノンエディットのDAWプロジェクトが入っており、実例と並行して学べる。
読みどころ
- 第1章はオーディオインターフェースとメータリングの基本を丁寧に確認し、音量の増加がなぜ歪みにつながるのかを図解。Loudness Units(LUFS)の概念と、SpotifyとTikTokで求められる数値の違いを並べることで、クライアントの提出先に応じたマスターの設計意図が掴める。
- 中盤では、ドラムとベースの音圧を両立させるためのサイドチェーンとスペクトルスプリットの二重構造を紹介。キックとバスドラがぶつかる帯域を分離しつつ、サチュレーションでアタック感を補強するテクニックは、実際のプロジェクトファイルを読みながら同じルーティンで再現可能。
- 後半はアナログ感の付け方として、真空管/テープシミュレーターとステレオ幅の対比を含む。ミックス段階での「空間設計」として、リバーブ/ディレイのプリセット、マスタリングでのリミッター・オートメーションを示し、DVD内のプロジェクトと同じ数値が掲載されているので聴き比べもできる。
類書との比較
『ラウドミックス・マスターの教科書』(シンコーミュージック)はマスタリング寄りの解説で、ミックスの段階への踏み込みが浅い。こちらはミックスとマスタリングを「音圧の設計」という一点で繋げ、ミックスの段階からラウドネスを逆算する構造になっている。プロジェクトファイルを丸ごと追う点でも学びが深まる。
こんな人におすすめ
- 自宅で音楽制作をしていて「音が薄い」と悩むDTMユーザー。音圧を高めるための帯域のまとめ方が具体的。
- クリエイティブディレクターやエンジニアで提出先ごとに音圧基準を揃えたい人。複数のプラットフォームで求められるLUFSを比較する表が助かる。
- ミックスとマスタリングをひとりで担当しているインディーアーティスト。DVDのプロジェクトと同じプラグイン設定をそのまま再現し、試行錯誤を短縮できる。
感想
音圧を上げるとすぐに音が潰れると思っていたが、帯域を分割し欠けた部分を再構築するプロセスを丁寧に示してくれた。DVD内のプロジェクトは、言葉だけでは伝わりにくい細かな調整(例:プラグインのスレッショルドとアタック)を視覚化してくれるので、実践的な手を動かす感覚が持てた。ラウドネスを増す時のミックスバランスを聴き比べしながら調整する流れは貴重だった。