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レビュー

概要

『おいしいお米をつくりたい! ゆうちゃん、小学生で農家に弟子入りしました』は、米づくりへ夢中になった小学生の実話を描くノンフィクションです。主人公の「ゆうちゃん」こと新宅佑輔くんは、おいしい米の味へ強くひかれます。そこから農家の中井知広さんへ弟子入りし、小学2年生で休耕田を使った米づくりを始めます。子どもの挑戦物語として読める一方で、農業の現実、地域の高齢化、食べものが育つまでの時間の長さまで見えてくる本です。

この本の面白さは、好奇心がそのまま労働と観察へつながっていくところにあります。「米が好き」という気持ちは、食べる楽しさで終わりません。実際に田んぼへ入り、害虫や雑草と向き合い、台風を恐れ、収量を気にする。しかも目標は300キロです。夢物語ではなく、数字と自然条件のある挑戦として描かれるので、読みごたえがあります。

読みどころ

第一の読みどころは、出発点の素朴さです。ゆうちゃんは、農業を家業として継ぐわけでも、学校の課題だから仕方なくやるわけでもありません。中井さんの米を食べて「こんなにおいしい米があるのか」と驚き、自分でも作りたくなって弟子入りします。このまっすぐな動機があるため、後の苦労も単なる美談になりません。好きだからこそ続ける姿が本書の芯になっています。

第二の読みどころは、米づくりの難しさが具体的に見えることです。出版社紹介でも、害虫や雑草とのたたかい、おそいかかる台風、目標300キロ達成という焦点が示されています。しかも、ただ収穫量を増やせばいいのではなく、完全無農薬と天日干しにこだわる。ここが本書を面白くしています。効率だけを優先しない農業には、手間も判断も必要だとよくわかります。

第三の読みどころは、挑戦が個人の夢で終わらず、地域を動かしていくことです。高齢化が進む町で、子どもが本気で米づくりに向かう姿は、大人たちの気持ちも変えます。1人だけで回せる仕事ではないのが田んぼづくりです。技術を教える人、見守る人、応援する人がいて初めて続きます。本書はそこを通して、農業を「食べものの生産」だけでなく、地域の関係をつなぐ営みとして描きます。

本の具体的な内容

本書は、ゆうちゃんが中井さんの米と出会い、弟子入りし、休耕田で米づくりに挑む流れを軸に進みます。最初は好奇心に見える挑戦が、やがて長期戦であることがわかってきます。雑草をどうするか、害虫にどう向き合うか、天候の変化をどう受け止めるか。米づくりは一瞬の努力で結果が出る世界ではありません。だからこそ、1年単位で物事を見る感覚が自然に伝わってきます。

また、完全無農薬と天日干しという条件が物語に厚みを加えています。便利な方法にすぐ頼らず、米本来のおいしさを目指す。その選択には理想だけでなく、作業量の増加や失敗のリスクが伴います。本書はそこを曖昧にしません。農業をきれいごとで描かず、自然相手の仕事としてきちんと見せるから、読後の納得感があります。

さらに、本書は食育の本としても優れています。米は毎日の食卓にあるのに、その背景にある手間や判断を実感する機会は多くありません。本書を読むと、1杯のごはんの背後に、季節の移ろい、土地の事情、人の知恵が積み重なっていることが見えてきます。小学生の挑戦を追いながら、読者の側の食べ方まで少し変わる本です。

類書との比較

農業の本には、作り方を教える実用書と、地方の暮らしを描く読み物があります。本書はそのどちらでもあり、どちらだけでもありません。栽培の苦労を具体的に見せつつ、中心にあるのは1人の子どもの情熱です。だから専門知識がなくても読みやすいし、読み終えると農業の解像度は確実に上がります。児童向けノンフィクションとして、題材の選び方がとてもよいと思います。

こんな人におすすめ

食べものがどう育つのかに関心がある子どもはもちろん、大人にも勧めやすいです。農業、食育、地域づくりに関心がある人には特に刺さるはずです。また、好きなことを深める子どもの姿を見たい人にも向いています。進路の成功談ではなく、手を動かして学ぶ過程を読ませる本なので、学校の学びを外へひらく1冊としても価値があります。

感想

この本を読んでいちばん強く残るのは、「好き」が現実の重さに触れたとき、どう変わるかという点でした。ゆうちゃんの米への熱中は、かわいらしい興味では終わりません。雑草や害虫や台風を前にしても消えないからこそ、本物の関心だと伝わってきます。

同時に、本書は農業を特別な世界の話にしません。毎日食べている米の向こう側に、こんな時間と手間と判断があるのだと見せてくれる。地域の高齢化や休耕田の問題にも自然につながっていくので、小さな挑戦の話でありながら視野は広いです。子どものノンフィクションとしてだけでなく、食べものを見る目を育てる本としてもとても良い1冊でした。

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