レビュー

概要

『川島隆太教授の脳を鍛える大人の音読ドリル 名作音読 漢字書き取り60日』は、音読と書き取りをセットにした60日分のドリルです。特徴は、単語帳のように暗記で攻めるのではなく、「声に出す」「手で書く」という身体を使う学習に寄せている点です。

本書の構成は分かりやすく、表面では近代名作の冒頭部分を音読し、裏面では小学校で学習する漢字の書き取りを行う流れになっています。言葉を口から出し、文字として手元に戻す。この往復が、作業として気持ちよく続きます。

本書の具体的な中身

音読パートでは、名作の「冒頭」を扱うのがポイントです。物語は序盤の情報密度が高く、設定や空気が短い文章で立ち上がります。だから音読をすると、抑揚や区切りを意識しやすく、ただ読むより頭が起きます。

書き取りパートは、漢字を思い出して書く作業です。大人になると、読む機会は増えても、手で書く機会は減ります。その結果、「読めるのに書けない」が起きやすいです。本書はそこを真正面から埋めてきます。付属の別冊がある点も、使い勝手を上げています。

読みどころ

1) 音読は“読む速度”より“区切り”が鍛えられます

音読は、速く読むための練習というより、文の構造を体で掴む練習になります。息継ぎの位置、助詞のつながり、主語と述語の距離。こうした要素を、声に出すことで自然に確認できます。黙読のまま読み飛ばしていた部分が、音で引っかかる感覚があります。

2) 書き取りは、思い出す工程そのものがトレーニングです

書き取りは「正しく書く」だけが目的ではありません。思い出そうとして止まる時間が出ます。その止まり方に、自分の弱点が表れます。部首が曖昧なのか、送り仮名に迷うのか、似た字と混ざるのか。弱点が分かると、補い方も決めやすいです。

3) 60日で“言葉の筋力”が戻ります

語彙の勉強は、長い時間が必要だと思われがちです。ですが、本書のように短時間でも毎日続けると、「声が出る」「字が出る」という基礎が戻ってきます。基礎が戻れば、読書や学習の立ち上がりが軽くなります。

取り組み方のコツ

おすすめは、音読を「きれいに読む」より「止まらず読む」に寄せることです。噛んでも構いません。大事なのは、毎日声を出すことです。書き取りは、分からない漢字が出たらその場で調べ、同じ字をもう一度だけ書き直すと定着しやすいです。大量反復より、ミスの直後に修正を入れるほうが効きます。

音読と書き取りを“セット”で回す意味

音読だけ、書き取りだけでも練習になります。ただ、本書はセットで回す前提なので、相乗効果が出やすいです。

音読をした直後は、文のリズムや言い回しが残ります。その状態で書き取りへ移ると、文字の形だけでなく、言葉としてのつながりも意識しやすくなります。反対に、書き取りで手が止まった後に音読へ戻ると、つまずいた漢字を含む文に注意が向きます。この往復が、短時間でも密度を上げてくれます。

続けるための工夫

60日ドリルは、3日坊主が積み重なると失敗します。おすすめは、毎回「同じ手順」で始めることです。

たとえば、次の手順で固定化します。

  • 姿勢を整えます。
  • タイマーを押します。
  • 音読をします。
  • 書き取りをします。
  • 最後にひと言メモを書きます。

メモは「声が出た」「今日は字が出ない」だけでも良いです。記録が残ると、気分ではなく事実で続けられます。

名作音読パートの使い方

音読の題材が「名作の冒頭」になっているのは、短い文章で世界観が立ち上がるからです。数分でも読み応えがあり、読む側の気分に左右されにくいです。文章の区切りが分からないときは、句読点の手前で一度息を吸うだけでも、読みやすさが変わります。

また、音読は一人でもできますが、家の中で声が出しにくい場合は、声量を落としても構いません。大事なのは、黙読ではなく、声と息を使うことです。続けやすい形に調整して良いドリルです。

こんな人におすすめ

  • 黙読ばかりで、声に出す習慣がなくなった人
  • 読めるのに書けない漢字が増えてきたと感じる人
  • 難しい勉強より、短時間の基礎トレで立て直したい人
  • 読書を再開したいが、集中が続かない人

感想

この本を読んで実感したのは、言葉の衰えは知識の不足というより、出力の不足で起きるということです。読めるのに話せない、分かるのに書けない。そうした状態は、頭が悪くなったのではなく、出力の回路が使われていないだけかもしれません。

音読と書き取りは地味です。ただ、地味だからこそ効果が見えます。派手なテクニックではなく、声と手を毎日使う。60日後に残るのは、名作のフレーズ以上に、「言葉を扱う体力」です。そこを取り戻したい人にとって、丁寧な入口になる一冊です。

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    高橋 啓介

    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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