レビュー
概要
『川島隆太教授の脳を鍛える大人の計算ドリル: 単純計算60日』は、「難しいことを学ぶ」より先に、「簡単なことを速く正確に続ける」ことで脳の働きを底上げしようとするドリルです。1回あたりの負荷は軽く、やる気の波がある人でも続けやすい設計になっています。
本書に並ぶのは、いわゆる単純計算問題です。特別な知識は要りません。大事なのは、集中を切らさずに手を動かし、終わったら時間を確認して記録する、という流れを60日間回すことです。トレーニングというより、毎日の「計測」に近い感覚で進められます。
本書の具体的な中身
このドリルの中心は、紙の上での反復練習です。問題の種類はシンプルなので、解法で悩むより「どれだけ素早く処理できるか」に意識が向きます。逆に言えば、頭の中で考え込む時間が減り、注意の配分や処理速度の癖が露出します。
また、日ごとに取り組むページが進む形式なので、学習アプリのように誘惑が入りません。やることは今日の分だけです。終わったら時間と気分を書き残すだけです。この「入力(解く)→出力(記録)」のセットが、本書を習慣化しやすくしています。
読みどころ
1) “やる気”ではなく“仕組み”で続けられる
計算は退屈になりやすいです。ところが本書は、その退屈さを逆手に取ります。刺激が少ないからこそ、続けた分だけ差が出ます。気合いを入れて一気に頑張るより、毎日淡々と積み上げる人が勝ちやすい設計です。
2) 変化を「時間」で見られる
脳トレで一番困るのは、上達が曖昧になりやすい点です。「なんとなく良い気がする」だけだと続きません。本書は、取り組み時間という分かりやすい指標があり、改善を可視化できます。短時間でも、前日比が出るとやる理由になります。
3) “脳に効くか”以前に、生活の立ち上がりを整えやすい
本書を勧めたい理由は、効果の断定ではありません。毎日数分でも机に向かい、手を動かして記録する。その一連が、生活のリズムを立て直す助けになります。朝のスイッチとして使う人も多いはずです。
続けるコツ(60日を現実にする)
おすすめは、次の3つです。
1つ目は、時間帯を固定することです。朝食前、出勤前、昼休みなど、毎日同じタイミングに置くと迷いが減ります。2つ目は、タイマーを使うことです。後から時間を見るより、最初に「今日は測る」と宣言したほうが集中しやすいです。3つ目は、結果の受け止め方を決めることです。遅い日があっても問題ありません。疲労や睡眠の影響が出るのは自然です。むしろ、その揺れを観察できるのがドリルの価値です。
よくあるつまずきと対処
本書はシンプルなので、つまずきもパターン化します。
まず起きやすいのが、最初だけ頑張って疲れることです。ここは、スピードを追う日と、正確さを追う日を分けると続きます。次に起きやすいのが、間違いを怖がって手が止まることです。間違いは出ます。止まるより、最後まで解いてから見直すほうが良いです。計算ドリルの目的は、完璧な答案より、集中の持続です。
もうひとつは、結果を人と比べてしまうことです。本書は競技ではありません。比べる相手は昨日の自分です。少し速くなった日があれば、それで十分です。逆に遅い日が続くなら、睡眠や疲労のサインとして扱えます。
記録の取り方(おすすめ)
記録は難しくしない方が続きます。たとえば次の3点だけで足ります。
- 取り組んだ時刻。
- かかった時間。
- ひと言メモ(眠い、集中できた、肩が凝る、など)。
このメモが溜まると、速い日の条件が見えてきます。朝に強いのか、昼が良いのか。食後は遅くなるのか。脳トレというより、生活の自己観察に近い価値が出ます。
こんな人におすすめ
- スマホ学習が続かず、紙でシンプルに回したい人
- 生活のリズムが崩れがちで、短い習慣から立て直したい人
- 頭の回転を上げたいが、難しい学習に取り組む余裕がない人
- 数分の集中を毎日積む練習をしたい人
感想
この本を読んで良いと思ったのは、負荷が軽いことを弱点にしていない点です。難易度を上げて達成感を作るのではなく、低い負荷を毎日積むこと自体を価値にしています。続けられる範囲で、淡々と積み上げる。その姿勢がそのまま本の形になっています。
一方で、計算が苦手な人には心理的な抵抗もあるはずです。その場合は、スピードより「毎日開く」をゴールにしても良いと思います。60日後に残るのは、正答数よりも、習慣の筋力です。そこから次の学習へつなげられるなら、本書は十分に役割を果たします。
個人的には、読書や仕事の前にこのドリルを短時間挟むと、頭の立ち上がりが良くなりました。やることが単純なので、迷いが減り、集中の入口を作りやすいです。