レビュー
概要
『ララのまほうのことば (山烋のえほん)』は、暑い夏の日に、ひとりの女の子が草や葉っぱへ向けてかける「やさしい言葉」の力を描いた絵本です。版元紹介によれば、ララはバケツを持って、コンクリートに囲まれた小さな空き地へ向かいます。フェンスを越えた先で、ララは「こんにちは、みどりのおともだち」と声をかけ、草たちに水をやります。この場面だけで、この本が自然を風景としてではなく、関係の相手として描いていることがよくわかります。
ただし、本書は自然賛歌だけの絵本ではありません。ララはいつも元気でどろんこになって帰る子で、お母さんはそのたびに少しイライラしています。とうとう「外に出かけちゃダメ!」と言われてしまう。ここで物語は、子どもと自然の交流だけでなく、親子の緊張も抱え込みます。だからこそ、ララが心の中から「みどりのおともだち」に思いを届けようとする場面が生きてきます。魔法は特別な呪文ではなく、相手を思う言葉とまなざしから始まるのです。
読みどころ
第一の読みどころは、夏の暑さの描き方です。紹介文では、道路は湯気が出そうなくらい蒸し、太陽はギラギラと照っているとあります。この強い暑さの中で、ララがわざわざバケツを持ち、空き地へ向かうという行動が際立ちます。夏のしんどさがあるからこそ、水をやる行為の意味がはっきりするのです。
第二の読みどころは、「みどりのおともだち」という呼び方です。草や葉っぱを単なる植物としてではなく、話しかける相手として見る。この視点があるだけで、物語の温度が大きく変わります。植物の世話をする話は多いですが、本書は「育てる側」と「育てられる側」をきっぱり分けません。ララが言葉をかけ、水をやることで、ララの心もまた育っていくように感じられます。
第三の読みどころは、お母さんの存在です。ララが自然と交わる話だけなら、もっと素直でやさしい話として進んだはずです。でも本書は、どろんこの子どもを前にした親の現実も入れています。だから、ララの世界は空想だけで閉じません。親のイライラも、ララの元気さも、どちらも本当のものとして置かれているから、後半の「まほう」が甘すぎないのです。
本の具体的な内容
物語の中心にあるのは、都市の片隅にある小さな空き地です。コンクリートに囲まれたその場所へ、ララはバケツを持ってやってきます。フェンスを越えて、草たちへ水をやり、「こんにちは、みどりのおともだち」と話しかける。この場面は、自然が豊かな森や庭ではなく、限られた都市空間で起きることが大事です。だから本書は、「自然とふれあう絵本」というより、「見過ごされがちな命へ目を向ける絵本」として読めます。
また、ララの行動は単なる遊びではありません。強い日差しの中で、喉が渇いていそうな草たちへ水をやる。そのうえで言葉まで添える。ここには、相手の状態を想像する力があります。まだ小さな子どもでも、目の前の命がどうなっているかを感じ取れるのだという信頼が、この絵本にはあります。子どもを「教えられる存在」と見るのではなく、すでに誰かを気づかうことのできる存在として描いている点がすばらしいです。
一方で、お母さんのイライラもきちんと描かれます。ララはいつも元気で、どろんこになる。その元気さは魅力でもありますが、毎日洗濯し、片づけ、暑さの中で子どもを見る側にとっては負担にもなります。「外に出かけちゃダメ!」という言葉は、悪役のひと言ではなく、疲れた大人の本音として読めます。このリアルさがあるから、親子の関係が一面的になりません。
そのうえで、ララが外へ出られなくなったあとも、みどりのおともだちへ思いを届けようとする展開がとてもいいです。体はそこへ行けなくても、心の中で相手を思い、言葉をかける。その行為に応えるように、植物たちが不思議な力を見せる。ここで本書は、言葉の力を誇張しすぎず、けれど確かに現実を変えるものとして描きます。やさしい言葉は、すぐに誰かを変える魔法ではないかもしれません。でも、命へ注意を向け、関係を生み、場の空気を変える力はあります。そのことは子どもにも伝わりますし、大人にも届きます。
さらに、本書は受賞歴のある絵本であり、翻訳絵本として日本へ届いた背景も持っています。エズラ・ジャック・キーツ賞の受賞作であり、いたばし国際絵本翻訳大賞の受賞作でもあるという事実は、この物語が文化圏を越えて伝わる力を持っていることの証明でもあります。暑い日、親の苛立ち、子どものやさしさ、草木の命。どれも世界のどこでも共有できる感情だからこそ、読みやすく、長く残るのだと思います。
類書との比較
自然を大切にしようと訴える絵本は多くありますが、本書は説教の形をとりません。植物を守るべき対象として掲げるのではなく、ララにとっての「おともだち」として描くことで、ぐっと距離を縮めています。そのため、環境教育の本というより、関係性の絵本として読めるのが特徴です。
また、親子の衝突がちゃんと入っているのも珍しいところです。やさしい気持ちだけで完結する話ではなく、現実の生活の面倒くささを含んだまま、なお言葉の力を信じる。この少しざらついた感じが、本書を甘すぎないものにしています。
こんな人におすすめ
自然や植物が好きな子どもにはもちろん、都会で育つ子どもにもおすすめです。庭や畑がなくても、身の回りの小さな緑と関われることが伝わります。また、親子で読むと、子どもの元気さをどう受け止めるか、子どもが見ている世界の豊かさをどう見逃さないかを考えるきっかけになります。
絵本としてはやや静かな部類ですが、そのぶん、読み聞かせのあとに「ララはどうして水をあげたんだろう」「ことばってどんな力があるんだろう」と話しやすい本です。
感想
この本を読んで印象に残ったのは、魔法の正体がずっと地に足のついたものだったことです。ララは派手な魔法を使いません。することは、水をやることと、やさしい言葉をかけることだけです。でも、その2つは生きものと関わるときの基本でもあります。本書はその基本を、子どもの目線のまま、ちゃんと魅力的に見せてくれます。
もうひとつよかったのは、お母さんのイライラを消さないことでした。親も暑くて疲れるし、子どもはどろんこになるし、気持ちはぶつかる。その現実を通ったうえで、なおやさしい言葉が力を持つと描くから、この絵本の結末はきれいごとに見えません。小さな空き地と小さなことばから、世界との関わり方そのものを考えさせてくれる絵本でした。