『マインドフルネス認知療法 うつを予防する新しいアプロ-チ』レビュー
著者: Z・V・シーガル 、J・M・G・ウィリアムズ 、J・D・ティーズデール(著) 、越川房子
出版社: 北大路書房
著者: Z・V・シーガル 、J・M・G・ウィリアムズ 、J・D・ティーズデール(著) 、越川房子
出版社: 北大路書房
『マインドフルネス認知療法』は、うつの再発予防を目的にした心理療法を、理論と実践の両面から紹介する本です。内容紹介では、マインドフルネスの中核が仏教の瞑想実践の態度にあると述べます。認知行動療法は長らく「宗教とは無縁の科学」として語られてきました。それでも、なぜマインドフルネスに注目するのか。本書はそこから逃げません。効果機序の理論、臨床場面での具体的指導、効果の実証までを扱います。
目次が示す通り、第Ⅰ部は「うつへの挑戦」です。うつの問題、再発、反すう、認知的脆弱性といった論点を押さえます。そのうえで、第Ⅱ部で8セッションのプログラムへ入ります。理屈で納得し、手順で実装する。構造がはっきりしています。
第1章はうつの問題で、慢性的にくり返すうつや、効果を維持する心理療法の必要性へ触れます。第2章は再発のプロセスです。特に重要なのが「思考の反すう」です。悪い考えを止めようとして、むしろ考えに巻き込まれる。巻き込まれるほど気分が落ちる。気分が落ちるほど、また反すうが強くなる。本書はこの循環を、ただの気合いの問題にしません。
第3章では、マインドフルネス認知療法の開発が語られます。注意をコントロールするトレーニング、脱中心化という言葉が出ます。考えを真実として扱うのではなく、考えとして扱う。この距離の取り方が再発予防の鍵だと読めます。
第5章で8セッションの全体像を示し、セッション1は自動操縦状態に気づくことから始まります。レーズン・エクササイズ、身体への焦点、日常の活動の中のマインドフルネスなどが入ります。セッション2は「うまくいかないとき」です。練習への態度や「私はうまくできているか」という評価の罠が扱われます。セッション3では呼吸へのマインドフルネス、心がさまようこと、強い感情が生じたときの対処、3分間呼吸空間法などが登場します。
以降も、現在にとどまる、受容、させておくこと、困難への意図的な注意など、再発を誘発しやすい場面に対して手順を用意します。読むだけで終わらせず、練習を前提に書かれている点が本書の強みです。
第4章は「心のモード」です。ここでの問いは、何が問題なのか、何が心の習慣を持続させるのか、どうやってモードを変えるのか、という流れです。ここが腑に落ちると、うつの再発が「意志が弱いから」ではなく「モードが切り替わらないから」に見えてきます。見え方が変わると、対策も変わります。
さらに、中心となるスキルとしてマインドフルネスを置きます。マインドフルネスを、宗教的な雰囲気で語らない。注意のコントロールとして扱います。だから、練習の意味がぼやけにくいと感じました。
セッション4は「現在にとどまる」です。注意の焦点を狭めることと広げること、ネガティブな自動思考、3分間呼吸空間法などが続きます。ここは、うつの再発が強まりやすい局面に対して、手順を入れる章です。
セッション5は「そのままでいる」です。受容すること、させておくこと、そのままでいることを、スローガンではなく技能として扱います。困難や問題に意図的に注意を向ける、という方向が出ます。避けたいものへ触れるので難しい。ただ、避け続けると反すうが増える。ここに向き合う章だと読めます。
セッション6以降も、実践の中で何が起きるかが細かく書かれています。心がさまようこと、身体の不快感、強い感情が生じたときにすること。つまずきポイントが想定されているので、読み物よりトレーニングの説明書に近いです。
マインドフルネスの類書には、ストレス低減や健康増進へ寄った本があります。あれは入口として優秀です。一方で、本書は「うつの再発予防」という目的が明確です。再発に関わる認知的脆弱性や反すうのプロセスを、理論として整理したうえで、8セッションの実践へつなぎます。目的が明確な分だけ、読後に取り組むべき練習もはっきりします。
また、認知療法の本は思考記録のような技法中心になりがちです。本書は「思考と距離を取る」方向へ寄ります。思考の内容を議論する前に、巻き込まれ方を変える。ここが違いです。
実践が前提の本なので、読むだけで楽になるタイプではありません。けれど、再発の循環を断つための「心の扱い方」を、理論と手順で渡してくれる本でした。
症状が重い場合は、自己判断で抱え込まず、専門家へ相談しながら読むのが安全です。本書はあくまで「練習の地図」であり、単独で治療の代替になるものではありません。