レビュー

概要

『作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~』は、小説として読める作曲入門書です。主人公の女子高生“いろは”が、天才肌の同級生“珠美”に導かれながら、14日間で曲作りの考え方を身につけていく。物語の形を借りているので、普通のDTM解説書よりも「挫折ポイント」が先回りで描かれます。

目次を見るだけでも、作曲に必要な“山”が一通り入っています。理論の話、耳コピ、越えられない壁、続く人と続かない人、キー、メロディラインと構成、テクスチャー、作曲合宿。しかもそれが、抽象論ではなくストーリーの中の課題として出てくるので、「次に何を練習すればいいか」が自然に残ります。

読みどころ

1) 「珠ちゃんと私」で、作曲の入口が“会話”になる

作曲の本は、いきなり用語が多くて置いていかれがちです。本書は最初を会話から始めて、作曲の入口を心理的に下げます。わからないことを質問し、変な質問をしても笑われない。そういう空気があるだけで、初心者は続けやすいです。

2) 理論の話を「気になるけど後回し」にする勇気

作曲初心者がハマりがちなのは、理論を理解してからじゃないと作れない、という思い込みです。本書は「それでも気になる理論の話」を扱いつつ、理論が大事な場面と、今は手を動かすべき場面を切り分けます。

この切り分けがあると、完璧主義の沼から抜けやすいです。理論を避けるのではなく、順番を守る。ここが本書の良さです。

3) 「耳コピ」が、最大の山として正面から出てくる

耳コピの話は、作曲の上達に直結します。でも初心者には難しい。本書は耳コピを早い段階で取り上げ、さらに「耳コピ最大の難関」まで言及します。

耳コピができないとき、人はセンスのせいにしがちです。本書は、壁がどこにあるのかを分解します。だから、練習が“根性”ではなく“課題の切り分け”になります。

4) キー、メロディライン、構成が「物語の課題」として出てくる

キーの話、メロディラインと構成の話は、作曲の中核です。でも普通の解説書だと、理論の説明が先に来て、実感が湧きにくい。本書は「珠ちゃんビックリ大作戦」のようなイベントに乗せて、必要な考え方を出してきます。

曲作りは、完成形が見えないと不安になります。本書は「今はここを決めよう」と作業を区切るので、完成に向けて進める感覚が持てます。

5) 「テクスチャー」という言葉で、音の“質感”を扱う

テクスチャーの話は、初心者にとっては抽象的になりやすいポイントです。本書はそこを、珠美のひと言の補助も挟みながら、イメージと言葉をつなげます。

音の良し悪しを、センスの一言で片づけない。どんな質感を目指すのかを考える。ここに踏み込めると、曲が“音の並び”から“作品”に近づきます。

6) 作曲合宿で「作る」を完走させる

後半の作曲合宿(前編/後編)は、学んだ要素をまとめる場になっています。作曲は、学ぶだけでは上達しません。作って、振り返って、直す。そのループが必要です。本書は物語の勢いで、そのループを最後まで回してくれます。

7) 「14日間」が、練習の期限になる

入門書は「読んだ」で終わりがちです。本書は14日間という枠があるので、読む側も「今日はここまで」と区切りやすい。1日で全部やる必要はありません。けれど期限があると、手を動かす優先順位が上がります。

特に、耳コピやメロディ作りのように正解が1つに決まらない練習は、だらだら引き延ばすほど苦しくなります。本書だと「一旦ここまで作ってみよう」と背中を押す形で進むので、途中で止まりにくい。作曲の練習に必要な“締め切り感”が、物語の中に埋め込まれているのが良いところです。

類書との比較

DTMの入門書は、ソフトの操作説明や、コード進行のテンプレ集に寄ることが多いです。そうした本は即効性がありますが、「なぜそれを選ぶのか」が薄いと、途中で手が止まりやすい。

本書は、操作の手順よりも「考え方」と「挫折ポイントの越え方」に重心があります。小説形式なので、読み物として進めるうちに、自然と課題の順番が身につく。YouTubeの断片的な知識をつなげたい人にも向きます。作曲を“勉強”ではなく“制作”として始めたい人にとって、類書よりも相性がいいと思います。

こんな人におすすめ

  • 音楽知識ゼロに近く、作曲の入口で止まっている人
  • 理論で詰まりやすく、手を動かす順番が知りたい人
  • 耳コピやメロディ作りの壁を、具体的に越えたい人

感想

作曲の挫折は、センスの問題というより、課題の順番を間違えることで起きやすい。本書を読んでそう感じました。いろはの迷いが、そのまま初心者の迷いとして描かれているので、「わかる」が多いです。

音楽理論が苦手でも、置いていかれにくいのも嬉しい点でした。大事な概念は出てきますが、まずは形にする。必要になったら戻る。そういう順番で読めるので、完璧主義で固まりやすい人ほど相性が良いと思います。

作曲を始めたいのに、何から手をつければいいかわからない。理論で固まってしまう。耳コピができなくて自信が折れる。本書はその全部を、14日間という枠で整理してくれます。読み終わったあと、いきなり大作は作れなくても、「まず1曲を完走する」ための地図は手に入る。そういう入門書でした。

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