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レビュー

概要

『平和のうぶごえ 「原爆の子」として生きた80年』は、1951年初版の被爆少年少女の手記集『原爆の子』を書いた一人である早志百合子が、自分たちがその後をどう生きたのかをたどる本です。被爆体験そのものを記録する本は多くありますが、本書の特徴は、子どものときに書いた手記で歴史に名を残した人が、その後の長い人生をどのように引き受けてきたのかを描いていることです。被爆の瞬間だけではなく、その記憶とともに何十年も生きる時間まで射程に入っています。

毎日新聞出版の紹介によれば、本書は『原爆の子』執筆者らの集まりである「きょう竹会」の歩みも軸になっています。1972年の発足以来、被爆者同士が年に一度集まり、苦悩を分かち合い、励まし合ってきた歴史がある。本書はその集団の記憶でもあり、個人史でもあります。戦争体験の継承というと、どうしても大きな歴史叙述になりがちですが、この本はもっと個別の生活に近い場所から語ります。

読みどころ

第一の読みどころは、第1章から第3章にかけての時間の伸びです。第1章では爆心地から1.6キロの自宅で被爆した体験が語られ、第2章では中学2年生で「被爆体験」を書いた経緯へ進みます。そして第3章では、大人になった「原爆の子」たちの人生へ視点が移ります。被爆は一瞬ですが、その一瞬が何十年も続く人生の輪郭を変えてしまう。そのことが、章の流れそのものから伝わってきます。

第二の読みどころは、第4章の「未来への『遺言』」です。ここでは再び手記を書く人びとや、兄の無念を晴らしたいという思い、被爆孤児の独り言など、継承のかたちが複数描かれます。単に「伝えなければならない」と語るのではなく、誰が何をどのように語り直すのかが具体的です。戦争体験の語り継ぎが抽象的なスローガンで終わっていないところに、本書の強さがあります。

第三の読みどころは、第5章と第6章です。被爆体験を語り始めること、母の記憶を絵にすること、そして2024年冬の再会。ここで本書は記録集から、いまを生きる人の本へ変わっていきます。過去を保存するだけでなく、年を重ねた当事者がいま何を感じ、何を託そうとしているのかが見えてきます。

本の具体的な内容

毎日新聞出版の紹介文には、本書が「最晩年を迎えた彼女らが次世代へ送る、生きるためのメッセージ」だとあります。この言い方に誇張はありません。目次を見ると、単なる回想ではなく、記憶の継承がどう実践されてきたかを追っていることがわかります。たとえば、第2章には「中学二年生『被爆体験』を書く」「全裸で受けた身体検査」といった具体的な項目が並びます。被爆後の差別や検査の生々しさも射程に入っています。

第3章では「命をつなぎたい」「『原爆の子きょう竹会』」「不思議な訪問者」といった項目が置かれ、個々の人生と共同体の歴史が重ねられていきます。ここで重要なのは、被爆者がただ傷つけられた存在として描かれないことです。もちろん苦悩はあるのですが、その一方で、互いを支え合い、言葉を残し、再会を積み重ねる主体として描かれます。被害の記録であると同時に、生存の記録でもあるわけです。

さらに第4章以降では、「再び手記を書く」「被爆体験を語り始める」「母の記憶を絵にする」といった行為が前面に出ます。ここが本書の核だと感じました。記憶は自然には残りません。話し、書き、描き、集まることでようやく次世代へ渡っていく。本書はそのプロセスを、理念ではなく実際の行為の連なりとして示しています。平和について考える本は数多くありますが、ここまで具体的に「継承の仕事」を見せる本は多くありません。

類書との比較

広島・長崎に関する本には、歴史研究書、証言集、子ども向けの平和学習本などさまざまな種類があります。本書はそのどれとも少し違います。歴史の大枠を整理する本ではなく、一人の被爆者の人生と、同時代を生きた仲間たちの歩みを中心に据えたライフヒストリーです。数字や年表では見えにくい、沈黙の長さ、語り始めるまでの時間、再会の意味がよく見える。その点で、歴史理解を生活史のレベルから深めたい人に向いています。

こんな人におすすめ

戦争体験の継承を、自分ごととして考えたい人におすすめです。学校で平和学習を担当する人、被爆証言を子どもにどう伝えるか悩んでいる人、歴史の本は読むが当事者のその後の人生までは追ってこなかった人にも合います。原爆や戦後史に関心がある大学生や一般読者はもちろん、若い世代にも読んでほしい本です。

感想

この本を読んで強く残ったのは、被爆体験は「その日」で終わらないという当たり前の事実でした。原爆文学や証言集では、どうしても1945年8月6日の衝撃に意識が集中します。しかし本書は、その後の数十年こそがもう1つの主題だと教えてくれます。書くこと、集まること、思い出すこと、語り直すこと。どの作業も、生き延びた人にとってどれだけ重かったかが静かに伝わってきます。

印象的だったのは、被爆の記憶が苦痛であると同時に、生きる原動力にもなっている点です。はじめにの見出しが『原爆の子』――私の生きる原動力となっているのも象徴的でした。悲惨さを訴えるだけなら別の本でもできます。本書の価値は、その悲惨さを抱えたまま人がどう老い、どう次代へ言葉を渡すのかを、非常に具体的な筆致で描く点です。平和を抽象語のままで終わらせない1冊です。

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