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レビュー

概要

『そこをなんとか』の第1巻は、司法制度改革に伴って新人弁護士が急増した2007年の日本を舞台に、無名の私立私立の新人・改世楽子がいかにして法律事務所と向き合っていくかを描き出す。楽子は、父親に「弁護士になれ」と背中を押されるかたわら、自身は極貧家庭の四国出身で医療の知識ばかりでなく、かつてキャバクラでアルバイトをしていたという背景を抱えていた。第1巻では、ある旧知の依頼人・菱原の「就職先がなければ雇いたい」という言葉を頼りに、菱原のいる杉原法律事務所に飛び込む決意をする。彼女は、完璧主義の所長・菱原描太郎と、クールな先輩弁護士・東海林博明、無表情な事務員・久保田アキと出会い、数少ない顧客と並走しながら、自分の無力さを「そこで何とかする」ための手を模索していく。

読みどころ

  • 第1話では、東海林と楽子の旧知の仲としての掛け合いが徐々に整う。東海林は、「弁護士って生活が苦しいよ」と暗に現実を突きつけるが、楽子は「弁護士だからこそ我慢しなければならない」のではなく、「依頼人の言葉が届くなら、そこを何とかする」という観念を持ち続けようとする。彼女が、法科大学院時代に支えてくれた依頼人に再び出くわし、当時の“頼む側”の視点をわずかながら理解するくだりが、1巻全体のモチーフになっている。
  • 依頼人の1人、資金が乏しい外国人居住者のトラブルでは、楽子が裁判書類よりも“言葉の選び方”で相手を励ます姿勢が光る。東海林は最初「そういう情にすがる時間はない」と切り捨てようとするが、楽子はわずかなセリフの工夫で依頼人に「まだ信じてよい」と伝え、粘り強さが弁護士としての真骨頂であると示す。そこに描かれた“言葉の力”の扱い方は、他の法廷モノが専門用語と判決に重きを置くのとは違い、読者が法律に疎いままでも感情移入できる。
  • 楽子が依頼人の属性にあわせて道具を選ぶ描き方もリアル。たとえば、外国人依頼人のために翻訳アプリではなく自作の音声メモを用意し、そこに「この憲法をどう伝えるか」を吹き込む。シンプルなテクニックだが、依頼人の心の奥に届くために専門家としてのプライドを出し切る姿勢が見て取れる。
  • 時々挟まれる描写として、楽子がかつてキャバクラで働いていた時の顧客との微妙な関係が挿入される。誰かの「儲けのための営業トーク」に乗るのではなく、「一人の人間として」誠実に接することが、やがて依頼人の信頼を勝ち取る布石となっている。事務所では、久保田アキが楽子の失敗を冷ややかに見守りつつも、不意に資料の書き直しを手伝い、「止まらずに考え・動く」姿勢を後押しする。

類書との比較

『99年の愛〜JAPANESE AMERICANS〜』や『リーガルハイ』のような“法律観を見せつける”タイプの作品よりも、本作はむしろ『ナニワ金融道』や『ラストコップ』のように“依頼人とともに走る頼もしさ”を前景に押し出している。豪華な法廷シーンよりも、暗い事務所で資料をめくる細いライトと事務員の労働の汗を丁寧に描く点で、同じ白泉社の『テセウスの船』よりも断然“人間の器”を勝負にしている。カテゴリ的にも『半沢直樹』のような倍返し構想ではなく、むしろ“誰かのために足を踏ん張る”小さなプロトコル対決を描いており、読者の心にしっかりと希望を植え付ける。

こんな人におすすめ

  • 司法制度改革後の日本社会を“働く人の目線”で追いたいビジネスパーソン。
  • 新人弁護士の“人間性”を丁寧に楽しみたい読書家。
  • キャリアの狭間で「自分だけのやり方」を試している人。
  • 仕事の愚痴ではなく、依頼人を守ることの意味を問い直したい弁護士志望者。

感想

第1巻を読み終えて、「そこをなんとか」のタイトルに込められた「崖っぷちで踏みとどまる」感が深く胸に残る。楽子のように、自分の言葉で勝負しきれていない人ほど“とどまるための言葉”を探している。法的な勝ち負けよりも、依頼人の表情を変えるための“その一言”に集中する構図が、単なるポリティカルエンタメを越えて“丁寧な人間観察”になっていた。

他のリーガル漫画ではあまり見られない“一緒に手を動かして依頼人を支える”描写に、素直に泣ける場面もある。巻末近くには、楽子が東海林と共に新人試験を振り返りながら、今の自分のガチガチに固まった思考をほぐしていく場面があり、ここで読者は“急がば回れ”の大切さを思い出す。今後のシリーズも、法律事務所という狭い世界で起きる“それでも続ける価値”を描き続けてくれるのではないかという期待で、ページを閉じた後も余韻が続く。

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    佐々木 健太

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