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レビュー

概要

『まだまだここから』は、水泳に打ち込む小学生の蓮が、努力しても報われない経験を通して、自分なりの「がんばる意味」を見つけていく物語です。ポプラ社の紹介にあるとおり、蓮は運動全般が得意というわけではないものの、「水泳」だけは少し自信がある子どもです。そんな彼に、スイミングスクールの「特訓生」になるチャンスが訪れるところから物語が動き始めます。

この本の魅力は、勝負に勝つ話として単純化しないことです。いちばん練習をがんばったのに、検定で選ばれたのは自分ではなく弟の凛だった。子ども向けの成長物語ではありますが、ここで簡単に「努力は報われる」とは言いません。むしろ、報われなかったと感じる瞬間にこそ、その人の見方や関係性が問われる。そうした現実的な苦さをきちんと描いているから、応援物語としても薄くなりません。

読みどころ

第一の読みどころは、蓮と弟の凛の対比です。努力した本人ではなく弟が選ばれるという展開は、読者にとってかなり痛い場面です。とくに子どもの世界では、結果がすべてのように見える瞬間があります。本書はその感情を軽く処理せず、悔しさ、気まずさ、家族との距離感まで丁寧にたどります。ここがあるから、後半で蓮が少しずつ視野を広げていく変化に納得が生まれます。

第二の読みどころは、市民プールで出会う陽太や海音の存在です。版元紹介でも、この2人との交流が蓮にとって大きな意味を持つと示されています。学校やスイミングスクールの競争の中だけにいると、どうしても「勝つか負けるか」で自分を測ってしまう。けれど、新しい友だちとの出会いは、努力の価値が順位だけで決まるわけではないと蓮に教えます。人間関係が視野を広げる装置として機能しているのがよいです。

第三の読みどころは、「がんばったことはむだになるのか」という問いの扱い方です。本書は正面からその疑問を引き受けます。結果が出なかったとき、練習した時間は無意味だったのか。悔しさをどう受け止めればいいのか。蓮がコーチや家族、新しい友だちと関わる中で、この問いの意味が少しずつ変わっていく構成が見事でした。

本の具体的な内容

物語の発端はとてもはっきりしています。蓮は特訓生になることを目標に、これまででいちばん練習をがんばります。ところが、検定の日に選ばれたのは弟の凛でした。この設定だけでも読者は蓮の立場に引き込まれます。自分なりに必死だったのに、結果がついてこない。しかも、相手が身近な弟だというのがつらいところです。本書はこの家庭内の複雑さを、子どもにもわかる言葉で描いていきます。

そのうえで、市民プールという別の場所が出てくるのが重要です。学校やスイミングスクールとは違う場所で、蓮は陽太や海音と出会います。版元紹介からもわかるように、この交流が蓮の考え方を変えていきます。競技としての水泳だけを見ていたときには見えなかったものが、少しずつ見えてくるのです。泳ぐことそのものの楽しさ、うまくいかない時期をどうやり過ごすか、他人と比べる以外のものさし。そうした視点が自然に入ってきます。

また、本書は「努力は報われる」と安易に結論づけません。むしろ、がんばっても実らない経験を経たからこそ、人は別の意味を見つけられるのだと語ります。ここに教育的な誠実さがあります。子ども向けの本でありながら、結果が出ない努力の時間にも価値があることを、説教ではなく物語の手ざわりで伝えてくれます。コーチとの関係、家族とのやりとり、弟を見る目の変化も、そのテーマを支えています。

類書との比較

スポーツ児童文学には、弱かった主人公が最後に勝つ話や、チームで団結して逆転する話が多くあります。本書はそうした定番の気持ちよさよりも、報われない時間をどう通るかに重点があります。そのため、派手なカタルシスよりも内面の変化が中心です。水泳を題材にしながら、競技の技術論へ行きすぎず、努力と自己評価の問題へ焦点を当てている点が特徴だと思います。

こんな人におすすめ

がんばっているのに結果が出ないと感じている子どもにおすすめです。スポーツをしている子はもちろん、勉強や習いごとで報われなさを抱えている子にも届く内容です。また、親や指導者が読むと、子どもが結果をどう受け止めているかを考える助けになります。勝った負けたの先にある成長を描く本を探している人にも向いています。

感想

この本を読んでよかったのは、悔しさをきれいごとで包まないところでした。努力して、期待して、それでも選ばれない。しかも弟が選ばれる。その痛みは子どもにとってとても大きいはずです。本書はそこをすぐに前向きな言葉で埋めません。だからこそ、蓮が少しずつ別の見方を手に入れていく過程が信頼できます。

特に印象に残ったのは、「がんばったことの先にある、本当の意味を見つけていく」という版元紹介の言葉でした。結果だけが努力の価値ではないというのは、大人でも簡単には受け入れられません。本書はその難しさを知ったうえで、それでも前へ進む道を示してくれます。静かですが、芯の強い応援の物語でした。

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