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レビュー

概要

『八十日間世界一周』は、「期限」と「旅」を掛け合わせた、古典的な冒険小説です。たった80日で世界を一周する。今読むと無茶ですが、その無茶を現実に寄せるための工夫が、この物語の面白さだと感じました。

主人公の旅は、根性で走り切る話ではありません。移動手段、時刻表、遅延、通貨、交渉。つまり、計画と判断の連続です。読んでいると、旅のスリルと同時に、意思決定の緊張が伝わってきます。

世界が狭く感じるときに読むと、効きます。実際に旅に出なくても、物語の速度と距離感が、頭のスケールを広げてくれるからです。

読みどころ

1) 旅が「予定」と「事故」のせめぎ合いで進む

世界一周は、計画だけでは回りません。予定外の遅れ、トラブル、勘違いが積み重なります。

それでも物語が前に進むのは、予定を守る力より、予定が崩れたときの修正力があるからです。リカバリーの判断が、冒険の面白さを作っています。

1.5) 「規律」と「柔軟さ」の組み合わせが気持ちいい

主人公は、衝動で動くタイプではありません。規律で動く。だからこそ、予想外の出来事が起きたときの「柔軟さ」が際立ちます。

計画を守るために、あえて計画を捨てる。そういう逆説が、物語の熱を作っています。読んでいて、意思決定の背筋が伸びます。

2) スピード感の源泉は「締切」

この作品は、旅の描写が魅力なのに、観光の本ではありません。締切があるから、寄り道はできない。だからこそ、読者はページをめくってしまいます。

現代でも、締切は苦しいものです。でも締切は、物語も人生も動かす装置になります。そういう意味で、古典でありながら“今っぽい”推進力があります。

3) 価値観の古さも含めて、考える余地がある

古典は、現代の価値観とズレます。そこを無理に消す必要はないと思います。

むしろ、時代の前提が違うからこそ「自分ならどう読むか」が出てきます。冒険のワクワクと、違和感の両方を扱える読書になります。

4) “旅の仲間”が、物語のテンポを作る

旅は、景色だけで成立しません。同行者との掛け合いがあると、急に生き物になります。

この作品は、旅の最中の会話や小さなすれ違いが、テンポを作っています。締切の緊張を、ユーモアでほどく。この緩急があるから、古典でも読みやすいと感じました。

類書との比較

冒険小説には、自然の脅威と戦うタイプと、人間関係のドラマが中心のタイプがあります。本書は、そこに「時間」という制約を強く入れています。

だから、派手なバトルがなくても面白い。旅のトラブルが、すべて“時間”に跳ね返ってくる構造が巧いです。

こんな人におすすめ

  • テンポの良い古典を読みたい
  • 旅が好きで、移動や計画の話に惹かれる
  • 期限がある状況での判断に興味がある
  • 親子で「もし自分なら?」の会話をしたい

逆に、心理描写をじっくり味わうタイプの小説を求めると、ややドライに感じるかもしれません。人物の内面より、状況と判断が中心です。

感想

この物語が気持ちいいのは、「大きな夢」を、具体の行動に落としているところです。

世界一周という派手な目標も、やっていることは小さな判断の積み重ねです。次の交通手段を選ぶ。遅れを回収する。必要な交渉をする。そういう現実の連続が、冒険を地に足のついたものにしています。

読むと、目標に対する見方が少し変わります。気合ではなく、設計で近づく。古典なのに、実用書みたいな読後感がありました。

また、時間が敵にもなれば、味方にもなる描き方が上手いです。遅れれば詰む。だから焦る。でも焦っても進まない。だから淡々と次を決める。この感情の揺れが、読者の呼吸をつかみます。

実践:読み終えたあとに残す問い

読後に次の3つを考えると、この本が“自分の話”になります。

  1. 締切があるとき、何を捨てるべきか?
  2. 計画が崩れたとき、どこを固定点にするか?
  3. 旅で一番大事なのは、景色か、同行者か?

親子で読むなら、「もし今やるなら、何日で一周できる?」と話すのも面白いです。地図や時刻表を見ながら、現代の移動手段で計画を立てる。物語が、会話の材料になります。

冒険として楽しく、考える材料も残る。古典を1冊読みたいときにちょうどいい作品です。

読み終えるころには、「期限のある挑戦」を少し前向きに捉え直せるはずです。

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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