レビュー
概要
世界記憶力選手権で何度も日本一を獲得し、世界グランドマスターの称号を保持する著者が、「脳にまかせる」勉強法を1冊にまとめた指南書。記憶力に自信がない人ほど、脳の編集機能を味方につけて圧倒的に覚えられるようになると強く主張し、単なる暗記術ではなく、思考と感情を連動させた学習の再設計を提案する。
読みどころ
- 第1章の「脳をだます記憶術」は、自分の脳が記憶の達人になるまでの軌跡を公開。世間的に「記憶力が悪い」と思い込んでいた著者が、逆に記憶の“クセ”を信号として使ってリズムを作ることで、何千もの数字を短期記憶に入れられるようになった詳細なプロセスをあとから再現できるよう丁寧にメモ。
- 第2章では「3サイクル反復速習法」を中心に、低迷しがちな勉強時間を3回の復習サイクル(読む→書く→振り返る)に分割し、それぞれを1分間で区切ることで高速化。時間感覚と脳の結びつきを意識し、「3回読んだら必ず1分書く」「思い出せたらコーヒー休憩」というリズムを指示し、記憶が定着する筋道を視覚的に説明する。
- 第3章は「1分間ライティング」。自分の言葉で要点を書くことで、記憶にしまったフレーズを神経回路の中で整理し、次の確認時にノートの該当ページを開くだけで全体像が蘇る仕掛けを導入。仕事での報告書やプレゼン準備にも応用しやすく、「会議の5分前に1分間で要点をまとめる」など、即時に使えるステップが挙げられている。
- 第4章「やる気の維持」は、感情が揺れるときでも3つの儀式を据えて安定させる。怒り・焦り・スランプが来たら「1分間呼吸」「今日の成功を書き出す」「次の1分だけ集中」のルーチンでリセットし、脳が“今こそ集中”だと認識するまで繰り返す。
類書との比較
『記憶術大全』が有名な記憶のパターンを列挙する辞典的構成なら、本書は実戦を中心にした導線。記憶のトリックを並べるだけでなく、ビジネスのタスクや資格試験の流れに結びつけているため、記憶の手法を「記憶する行為」そのものではなく、「記憶を使って行動する」ためのフレームとして再定義している。
こんな人におすすめ
・資格試験や英語の暗記パートで成果が出ない人。3回の反復を短い時間で回すことで、記憶への定着と測定が同時に進む。
・初心者向け講座の講師。1分間ライティングやチェックリストを教材として再利用できる。
・40代以降で記憶力の不安を感じている人。実践的なリズムづくりで、感覚的に記憶力を「再起動」できる。
感想
冒頭で著者が「脳は汗をかいて覚えるべきものを選んでいない」と語るとき、記憶力の“脳が勝手にやってくれる”部分に注目する余地が生まれる。実際に3サイクル反復を家族の暗記カードに使うと、1ページ目のポイントだけでスポッと答えが出るようになり、記憶力が上がったというより、“記憶の使い方”が変わった感覚。脳の自動編集に任せるという言葉どおり、リズムと身体を同時に整えながら記憶を走らせるこのメソッドは、長時間勉強しても飽きない仕組みを秘めていた。