レビュー
概要
『ずるい暗記術』は、勉強量を美徳にする発想をいったん疑い、限られた時間で結果を出すために勉強の順番を組み替える本です。著者の佐藤大和さんは、偏差値30台から司法試験に合格した経験をもとに、理解を深めてから覚えるのではなく、試験で求められる答えを先に押さえ、そこから必要な知識をつなぐ方法を提案しています。
本書の良さは、「暗記は根性」という空気をかなり現実的に崩してくれるところです。試験勉強では、覚えるべきことの全体量が多すぎて、丁寧に理解してから進もうとすると時間が足りなくなりがちです。本書はその現実を前提に、どこを削り、どこに時間を投じるかをはっきりさせます。資格試験や受験のように、締切が決まった学習に向いた一冊です。
読みどころ
いちばん印象に残るのは、「答えから入る」発想です。多くの人はテキストを最初から読み、理解できたら問題を解く順番で勉強しますが、本書はその逆を取ります。まず試験でどう問われ、どう答えるかを見る。そのうえで、なぜその答えになるのかを確かめていく。これは乱暴な近道ではなく、ゴールを先に固定してから知識を整理するやり方です。試験本番で必要なのは、知識を持っていること以上に、必要な形で思い出せることだとよく分かります。
また、本書は「やることを増やす」より「やらないことを決める」本でもあります。ノートをきれいにまとめる、参考書を何冊も並行する、分かった気になるまで解説を読む、といった行動は達成感がある反面、点数に直結しにくいことがあります。本書はその手の遠回りをかなり厳しく切り分けます。短期間で結果を求めるなら、気分のいい勉強より、得点再現性の高い勉強へ寄せるべきだという姿勢が一貫しています。
さらに、暗記を継続するための考え方も実務的です。やる気が出る日だけ勉強するのではなく、迷わず手をつけられる単位まで作業を小さくすること、復習のタイミングを感覚で決めないこと、できなかった日を必要以上に引きずらないことなど、習慣化の視点も強いです。勉強法の本でありながら、時間管理とメンタル管理の本としても読めます。
類書との比較
記憶術の本には、語呂合わせや場所法のようなテクニックを中心に扱うものがあります。それに対して本書は、記憶そのものの裏技よりも、試験勉強の設計変更に重心があります。つまり、「どう覚えるか」だけでなく「何を先に覚えるか」「どこまで理解すれば十分か」をはっきりさせる本です。そのため、日常教養より資格試験や受験との相性がいいです。
一方で、学習科学の本のように、インターリービングや想起練習を理論から丁寧に説明するタイプとも少し違います。本書はもっと切迫しています。試験日が近い人、働きながら勉強する人、失敗を重ねて勉強への自信を失っている人に向けて、まず勝ち筋を見せる書き方です。理論の網羅性より、結果を出すための優先順位に価値がある本だと感じます。
こんな人におすすめ
資格試験や受験で、勉強量のわりに点数へ結びつかない人に向いています。特に、真面目にテキストを読み込んでも過去問では手が止まる人、勉強時間は確保できても本番で知識を引き出せない人とは相性がいいです。働きながら勉強する社会人にも合います。
逆に、学問そのものをじっくり理解したい人には、本書の割り切りが強すぎる場面もあります。けれど、合格や得点という期限付きの目的があるなら、この現実主義はかなり役に立ちます。暗記が苦手だと感じている人ほど、能力の問題ではなく手順の問題として見直せる点に救われるはずです。
感想
この本を読んで強く感じるのは、勉強の苦しさのかなりの部分が「順番の悪さ」から生まれているということです。分かってから覚える、全部読んでから解く、完璧になってから次へ進む。そうした一見正しそうな手順が、時間のない人をむしろ追い詰めます。本書はそこをはっきり言い切るので、読んでいてかなり頭が整理されます。
同時に、本書は単なる抜け道の本でもありません。答えから入るにしても、最終的には繰り返し、再現し、定着させる地道さが必要だと分かります。だからこそ、楽をする本というより、努力のかけどころを変える本だと思います。努力量ではなく、努力の方向を変える。その発想を持てるだけで、勉強への手応えはかなり変わるはずです。試験勉強で行き詰まったときに、気合いを足す前に順番を疑えと教えてくれる点が本書の強さです。