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レビュー

概要

『多動力』は、「一つのことを長く続けるのが美徳」という働き方の常識を、ほぼ全方位からひっくり返す本です。著者が提示する中心命題は明快で、これからの時代に必要なのは“集中の持続”ではなく“熱中の連続”だというものです。インターネットによって業界の境界が溶け、個人が複数の役割を持てるようになった社会では、同じ場所で同じ作法を守ることそのものがリスクになりうる。そこを、具体例を重ねながら押し切る構成になっています。

印象的なのは、抽象的な精神論ではなく、「電話中心の働き方から離れる」「意味の薄い会議を削る」「肩書きを複数持つ」といった実装レベルの提案が多いことです。刺激の強い文体なので、乱暴に見える箇所もありますが、全体を通して読むと「限られた時間を、価値の高い仕事に再配分する」ための思考法として一貫しています。

読みどころ

本書の読みどころは、従来の生産性本が「どう頑張るか」を語るのに対し、「何を捨てるか」を先に問うところです。例えば、著者は“電話をかけてくる人間とは仕事をするな”という強い言い方で、同期コミュニケーションのコストを可視化します。賛否は分かれますが、連絡手段の選び方が集中力と成果物の質を左右するという指摘は、実務的な重みがあります。

また、「サルのようにハマり、鳩のように飽きよ」というフレーズに象徴されるように、本書は“飽きること”を否定しません。むしろ、一定の学習曲線を超えた後は、次の領域へ移るほうが希少性を作れるという立場です。日本では「継続年数」が評価軸になりがちですが、本書は「越境回数」を評価軸に置き換える。ここが最も現代的な提案だと感じました。

さらに、複数の肩書きを持つことが単なる見栄ではなく、リスク分散と学習加速の機能を持つという議論も実践的です。一つの会社、一つの職種に依存するほど、市場変化に弱くなる。逆に、異なる文脈に足場を持つと、知識が相互作用し、思考の解像度が上がる。この論点は、フリーランスだけでなく会社員にも応用できます。

類書との比較

『エッセンシャル思考』が「やらないことを選ぶ」ための静かな基準作りに強い本だとすれば、『多動力』は「選んだら即座に動く」ための推進力に強い本です。前者は整理、後者は加速。どちらも重要ですが、読後に起きる行動変化の質が違います。

また、『7つの習慣』のような人格ベースの長期的自己形成と比べると、本書はもっと短期のオペレーションに寄っています。予定表の設計、会議の削減、タスクの委譲など、日々の働き方を直接いじる内容が多い。じっくり人格を作る教科書というより、停滞した仕事環境を短期間で攪拌するための起爆剤として読むのが向いています。

こんな人におすすめ

  • やることは多いのに、成果の手応えが薄い人
  • 真面目に働いているのに、時間だけが先に消える人
  • 「一つに絞る」より「複数を回す」働き方へ移行したい人
  • 会議、連絡、調整業務に生産時間を圧迫されている人

逆に、長期的な専門性を一つの領域で深掘りしたいフェーズの人には、主張が極端に感じられるかもしれません。その場合でも、全部を採用する必要はなく、コミュニケーション設計と時間配分の章だけでも読む価値があります。

感想

この本を読んで最も残ったのは、「忙しいこと」と「価値を生むこと」は別だという当たり前の事実でした。多くの人は、誠実さの延長で仕事を抱え込みます。依頼を断れず、返信を急ぎ、会議を埋める。結果として、肝心の創造的な時間が削られる。本書はこの構造を、耳障りが良い言葉ではなく、あえて刺激の強い言葉で断ち切ろうとします。

もちろん、本書の主張をそのまま現場に適用すると摩擦は起きます。すべての会議が無駄なわけではないし、すべての電話が悪でもありません。ただ、重要なのは文字通りに従うことではなく、「自分の時間配分を自分で設計しているか」を点検することだと思います。本書は、その点検を強制的に始めさせる力が強い。

実際、読み終えてすぐにできる実践は多いです。会議の参加基準を決める、非同期連絡を増やす、外注できる作業を洗い出す、興味のある領域で小さな副業実験を始める。こうした小さな変更だけでも、日々の疲労感は大きく変わります。著者の語り口に好みは分かれても、「行動の速度」と「選択の密度」を上げる一冊としては、いま読んでも十分に有効でした。

もう一つ価値があるのは、読後に「予定表の見え方」が変わる点です。予定が埋まっていること自体を成果と見なさず、どの予定が価値を生み、どの予定が惰性なのかを切り分ける視点が残ります。これは短期的な生産性だけでなく、数年単位のキャリア設計にも効きます。忙しさに飲まれて方向感覚を失いかけたとき、再起動のきっかけとして手元に置いておきたい本でした。

本の虫達

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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