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レビュー

概要

『とびたて!みんなのドラゴン』は、福岡県北九州市にある日明小学校で実際にあった一年間を描くノンフィクションです。物語の中心にいるのは、人前で話すことが苦手な小六のマナミ。自分を変えたくて、学校でたったひとつの部活動である合唱部に飛び込みます。そこで顧問になった竹永先生は、笑顔の素敵な先生ですが、難病ALSを抱えていました。

この設定だけでも十分に強いのですが、本書の良さは「感動の実話」で押し切らないところにあります。先生が病気と向き合う話でもあり、マナミが自分の弱さと向き合う話でもあり、さらに合唱部の子どもたちが仲間としてどう変わっていくかの話でもある。焦点が一人に閉じていないので、読む側はいろいろな立場から感情を重ねられます。

物語の目標は、合唱曲《僕のドラゴン》を仕上げて全国大会で金賞を取ることです。けれど、この本の読みどころは結果そのものより、そこへ向かう途中の選び方にあります。メンバーの気持ちがそろわない時期もあるし、先生は合唱の専門家ではない。そんな中で、子どもたち自身が考えて決める場面が何度も出てきます。だから読後に残るのは、努力の美談より、チームが育つ過程の手触りです。

読みどころ

1. マナミの変化が、読者にとってかなり自分ごと化しやすい

マナミは最初から目立つタイプの主人公ではありません。むしろ、人前で話せないことに悩み、自分を変えたいと思いながらも一歩が出ない子です。だからこそ、合唱部へ入る決断だけでも十分に大きい。この「派手ではないけれど切実な一歩」があるので、高学年の読者はかなり入りやすいと思います。自分も学校で似た緊張を抱えたことがある、と感じやすいからです。

2. ALSの先生が「守られる存在」で終わらない

竹永先生は病気によって体が思うように動かなくなっていきます。ただ、本書はその事実を悲壮感の演出だけに使いません。先生は子どもたちの前に立ち続け、全部を指示するのでなく、どうすれば自分たちで動けるかを考えさせます。レビューでも触れられていたように、部がうまくいかない時ほど、先生が環境づくりに徹しているのが印象的です。そこに教育の本質が見えるんですよね。

3. 《僕のドラゴン》が「心の中の何か」を形にしていく

タイトルにあるドラゴンは、ただの派手なモチーフではありません。マナミたちが合唱を通して育てていく勇気や連帯感、そして言葉にしにくかった思いの象徴として機能しています。ステージへ向かう過程で、子どもたちは技術だけでなく、自分の声を出すことの意味を覚えていきます。合唱の本でありながら、読後に残るのは音楽そのもの以上に、「一緒に声を出すこと」の力です。

類書との違い

学校を舞台にした実話読み物には、部活の成功物語として進む本が多いです。本書にも全国大会を目指す熱さはあります。ただ、それだけならここまで残らなかったはずです。この本は、先生の病気、子どもの内気さ、仲間との衝突といった複数の困難が絡み合う中で、誰か一人の才能ではなく、場の力がどう育つかを描いています。

また、ノンフィクションなのにかなり読みやすいのも強みです。出来事の配置がうまく、登場人物の感情も追いやすい。だから、普段は実話ものを避けがちな読者でも物語感覚で入れます。読書感想文向きと言われるのも納得ですが、それ以前に普通の読み物として完成度が高いです。

こんな人におすすめ

  • 部活や合唱、学校行事の話が好きな小学校高学年の読者
  • 自分を変えたいけれど大きな一歩は怖いと感じる子
  • 先生と生徒の関係を描く本が好きな人
  • 実話ベースで読みやすい一冊を探している人

逆に、フィクションならではの大きなどんでん返しを求める人には少し地味に映るかもしれません。本書は事件の派手さより、日々の積み重ねの強さを描くタイプです。

感想

この本で強く残ったのは、「できないことがある人」が中心にいるとき、場がどう変わるかという視点でした。竹永先生は決して万能ではありません。けれど、全部を自分で抱え込まないからこそ、子どもたちが自分で考え始める。そこがすごくよかったです。支える側と支えられる側が固定されず、みんなが少しずつ誰かを助けている構図になっています。

マナミの成長も、とても素直に入ってきました。最初から強い子ではないからこそ、合唱部で声を出し、仲間と並び、舞台へ向かう過程が効いてきます。変化が急すぎないので、読みながら「このくらいの一歩なら自分にもあるかもしれない」と思えるんですよね。

課題図書として読む価値はもちろんありますが、それ以上に、学校という場所で人が変わる瞬間をきちんと拾った本としておすすめしたいです。金賞という結果だけを見れば分かりやすい成功談です。でも本当の魅力は、その前に何度も迷い、話し合い、支え合ってきた時間にあります。読み終えたあと、自分の中のドラゴンという言い方が少しだけ信じられるようになる本でした。

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