レビュー
概要
『NOISE』は、個人のバイアス(認知の偏り)よりも見落とされがちな問題として、集団内の判断のばらつき=「ノイズ」を扱った本です。
人事評価、採用、医療診断、裁判、保険の見積もり。重要な判断ほど、「同じ基準で判断しているはず」と信じたくなります。でも現実には、判断者が変わるだけで結論が揺れることがある。
上巻は、この“揺れ”がどれだけ大きく、どれだけ危険かを、事例とともに見せてくれる巻だと感じました。読後に残るのは、「自分は合理的に判断している」という自信の崩壊ではなく、「合理性は設計で守れる」という現実的な視点です。
読みどころ
1) バイアスではなく「ノイズ」に焦点を当てる新鮮さ
意思決定の本は、バイアスを扱うものが多いです。
でもノイズは別問題です。バイアスは“方向の歪み”で、ノイズは“ばらつき”。方向の歪みだけ直しても、ばらつきが大きければ、結果は安定しません。
この分解が入るだけで、組織の議論が変わります。
2) ノイズは「公平性」を壊す
同じ努力をしたのに、上司が違うだけで評価が変わる。
同じ事情なのに、審査官が違うだけで結論が変わる。
これは効率の問題だけではなく、公平性の問題です。本書は、ノイズが見えない差別や不信感を生む構造を、かなり冷静に説明してくれます。
3) 仕事の現場に直結する
採用、人事評価、査定、審査、レビュー、会議。
「人が判断する場所」には、だいたいノイズが入ります。だからこの本は、心理学というよりマネジメントの本として効きます。
本の具体的な内容
上巻の中で印象に残るのは、ノイズが“例外的なミス”ではなく、構造的に起きるものとして描かれることです。
たとえば本書では、採用や評価の世界で「その時点でAさんがBさんより上に見えたとしても、数年後も同じ順序になる確率は高くない」といった形で、判断の不安定さが示されます。
また、保険の見積もりのように、専門家が数値で評価しているように見える分野でも、担当者が違えば金額が大きくブレることがある。こうした事例が積み重なることで、「人間の判断は想像以上に揺れる」という現実が腹落ちします。
読み方としては、最初から「自分の職場に当てはめて」読むのが一番面白いと思います。
- 評価の基準は言語化されているか
- 面接官による差は大きくないか
- 判断の順番(見る順)が固定されているか
こういう観点で読むと、上巻は“問題の発見装置”になります。
ここが刺さる:ノイズは「個人差」ではなく「コスト」になる
ばらつきは、一見すると多様性や裁量にも見えます。でも重要な判断でばらつきが大きいと、組織は次のコストを払うことになります。
- 不公平感が増える(納得できない評価)
- 説明コストが増える(なぜこうなったか説明できない)
- 改善が遅れる(正しかったのか検証できない)
上巻は、ノイズを「見えない欠陥」ではなく「管理すべきコスト」として見せてくれるのが強いです。
読後にやると効くこと:ノイズが出る判断を3つ書き出す
読み終えた直後に、職場でノイズが出そうな判断を3つだけ書き出すのがおすすめです。
- 面接評価
- 企画の採否
- 事故やクレームの一次対応
何でもいいので「結論が揺れると困る判断」を挙げる。これだけで、この本が“知識”ではなく“改善”に変わります。
類書との比較
『ファスト&スロー』が「判断が歪む」原因を扱うなら、本書は「判断が揺れる」問題を扱う本です。
バイアスの本を読んで「気をつけよう」で終わった人ほど、この本の視点が効きます。気をつけるだけでは、組織の判断は揺れ続ける。だから仕組みが必要になる。上巻は、その前提を強く作ってくれます。
こんな人におすすめ
- 採用・評価・審査など、判断に関わる仕事をしている人
- 組織の「不公平感」や「評価の納得感」に課題がある人
- 意思決定を個人の能力ではなく、仕組みで良くしたい人
合わないかもしれない人
- すぐに使える小技だけ欲しい人(上巻は問題の構造を理解するパートが厚いです)
感想
上巻を読んで痛いほど分かったのは、「判断は人の中にある」ではなく「判断は環境の中で起きる」ということでした。
同じ人でも、疲れている日、忙しい日、直前に見た事例、会議の空気で結論が変わる。これを“個人の未熟さ”として責めても、組織は変わりません。
だからこそ、判断の設計が必要になる。上巻はその危機感を、具体的に手渡してくれる巻でした。