レビュー
概要
『成瀬は信じた道をいく』は、宮島未奈の「成瀬あかりシリーズ」第2作です。前作『成瀬は天下を取りにいく』で強烈な存在感を放った成瀬あかりが、今作でもまた周囲の人生と交差していきます。新潮社の電子書籍ページでは、「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の受験を見守る父、近所のクレーマー主婦、観光大使になるべく育った女子大生など、個性豊かな面々が成瀬あかり史に名を刻む全5篇と紹介されています。
前作が「成瀬という存在に出会う本」だとしたら、今作は「成瀬が周囲にどう作用しているかを見る本」です。成瀬本人は相変わらずブレません。でも周りの目を通して読むことで、成瀬の自由さがただの奇人ぶりではなく、人の迷いや思い込みをほどく力として見えてきます。
読みどころ
1. 成瀬を取り巻く視点人物がさらに効いている
目次には「ときめきっ子タイム」「成瀬慶彦の憂鬱」「やめたいクレーマー」「コンビーフはうまい」「探さないでください」の5篇が並びます。小学生、父親、クレーマー、観光大使候補の女子大生と、語り手の幅が広がっているのが特徴です。
成瀬はどこにいても成瀬なのに、語り手が変わるたび見え方が変わる。前作でもこの構造は魅力でしたが、今作ではさらに「成瀬が他人の人生を少しずつ動かしてしまう」感じが強くなっています。
2. 続編なのに、笑いと切実さのバランスが深くなっている
好書好日の書評では、「コンビーフはうまい」で成瀬がびわ湖大津観光大使として活動する姿が取り上げられています。成瀬の大胆さは相変わらずなのに、並走する篠原かれんの迷いが入ることで、単なる痛快さだけでは終わりません。成瀬の生き方が、他人の迷いを照らしてしまうところが今作の核です。
3. 成瀬は“主人公”であり“触媒”でもある
成瀬の魅力は、読者に「こんな人いたら面白い」で終わらせないことです。成瀬を見ている登場人物は、自分の選んだ道、自分の役割、自分の思い込みを見直さざるをえなくなります。成瀬は説教しませんし、背中を押す名言もあまり言いません。ただ存在して、自分のルールで動いているだけなのに、人の人生へ作用する。この触媒っぽさが唯一無二です。
類書との比較
前作『成瀬は天下を取りにいく』は、成瀬というキャラクターの鮮烈さで一気に読ませる作品でした。それに対して『成瀬は信じた道をいく』は、成瀬の周囲へ視点を広げることで、シリーズの厚みを増しています。
また、青春小説や地方小説として読むこともできますが、今作は「我が道をいく人を前にしたとき、周囲はどう変わるか」という群像劇の面白さが強いです。笑えて、少し胸が熱くなって、最後には自分の行動まで見直したくなる。この後味は成瀬シリーズならではだと思います。
こんな人におすすめ
- 『成瀬は天下を取りにいく』を読んで、続きが気になっている人
- 連作短編でテンポよく読める小説が好きな人
- 変わった主人公だけでなく、周囲の視点で人物像が立ち上がる作品が好きな人
- 読後に少し元気が出る小説を探している人
前作未読でも読めなくはありませんが、成瀬の面白さを最大限味わうなら『成瀬は天下を取りにいく』から入るのがおすすめです。
感想
この本の良さは、成瀬の奇抜さを消費ネタにしないところです。周りの人は最初、だいたい戸惑います。でも、一緒に過ごしているうちに、自分がどれだけ他人の視線や役割に縛られていたかが見えてくる。成瀬はそれを責めずに、勝手に前へ進んでしまう。だから見ている側も、自分の足元を見直したくなるんですよね。
前作の勢いが好きだった人は、続編で少し温度が落ちるのではと不安かもしれません。でも実際は逆で、成瀬の輪郭がさらに深くなるタイプの続編です。前作の「この子は何なんだ」という驚きが、「この子がいると周りはこう変わるのか」という面白さへ変わっていく。シリーズものの続編としてかなり強い一冊だと感じます。