レビュー
概要
『成瀬は信じた道をいく』は、宮島未奈の「成瀬あかりシリーズ」第2作で、前作『成瀬は天下を取りにいく』の魅力だった”成瀬あかりという存在の圧”を、そのまま別方向に深めた本です。前作が「こんな高校生がいたら忘れられない」と読者に印象づける一冊だったのに対し、今作は「その人が周囲にいると、ほかの人の人生はどう揺れるのか」を描く連作短編集として効いてきます。
成瀬は今回も基本的に変わりません。思い立ったら動くし、他人の目を気にして自分を縮めないし、妙に筋が通っている。そのブレなさが、むしろ周囲の迷いを浮き上がらせます。小学生、父親、近所の大人、同世代の女性と、語り手が変わるたびに成瀬の見え方も少しずつ変わるのですが、そのたびに「普通に生きる」とは何なのかを読者まで考えさせられるのが強いです。
読みどころ
1. 成瀬のまわりにいる人の視点がとにかくうまい
各篇の面白さは、成瀬本人を内面から説明しすぎないことにあります。小学生から見た成瀬、父親から見た成瀬、ちょっと厄介な大人から見た成瀬、進路に迷う同世代から見た成瀬。語り手が変わるたびに、成瀬は「自由で頼もしい人」にも「意味がわからないほど一直線な人」にも見える。その揺れのおかげで、成瀬が単なる変人キャラに閉じません。
2. 笑えるのに、読後に残るのは前向きさだけではない
シリーズの魅力は軽快さにありますが、今作はそこに切実さが厚く乗っています。受験、仕事、地元との距離、人からどう見られるか、自分がどこへ向かうのか。誰もが一度は抱える迷いが、それぞれの短編にちゃんと置かれている。成瀬はそれを真正面から解決してくれるわけではありませんが、迷っている側の思考を一段ずらしてしまう。その効き方が実にうまいです。
3. 続編なのに、シリーズの強みが広がっている
前作の成功に乗って同じノリを繰り返すのではなく、今作は成瀬の外側へカメラを引いています。そのため、前作の「勢い」が好きだった人も、「成瀬がいることで世界がどう動くか」という別の面白さを味わえます。続編としてかなり健全で、シリーズものの理想的な育ち方をしていると感じました。
類書との比較
前作『成瀬は天下を取りにいく』と比べると、今作はキャラクターの鮮烈さよりも、周囲に与える影響の描き方で読ませます。成瀬という軸は変わらないのに、作品全体の見え方はかなり違います。前作が「成瀬の名刺」なら、本作は「成瀬のまわりにいる人の人生の動き」を見せる本です。
また、地方を舞台にした連作短編として読んでも完成度が高いです。地元の空気感が笑いの背景になりつつ、そこで暮らす人の温度差や距離感まで自然に伝わる。青春小説として読めるうえ、群像劇の面白さもあり、そこに少し変わった成長譚の味まで重なる。この幅の広さが本作の強みです。
こんな人におすすめ
- 前作『成瀬は天下を取りにいく』が面白かった人
- テンポのいい連作短編が好きな人
- 強い主人公そのものより、その人に触れた周囲の変化を読むのが好きな人
- 読後に少し気持ちが軽くなる小説を探している人
前作未読でも読めなくはありませんが、成瀬の初期衝撃を知っているほうが今作の広がりはよりよく味わえます。シリーズの順番で読む価値があるタイプです。
感想
この本の好きなところは、成瀬を神格化しないことです。たしかに魅力的だし、見ていて痛快です。でも、まわりの人たちは最初から感動しているわけではなく、戸惑ったり、振り回されたり、時にはイラッとしたりもする。その自然さがあるからこそ、成瀬が結果的に人の考え方をほぐしていく過程に説得力があります。
前作の勢いが好きだった人ほど、続編はどうしても不安になると思います。ただ本作は、熱量を落とすのではなく、熱量の使い道を変えてきた印象です。「成瀬ってすごい」で終わらせず、「成瀬のように生きる人を前にしたとき、自分はどうするか」まで読者に返してくる。シリーズ2作目としてかなり強いです。
読み終えると、成瀬のようには生きられなくても、少なくとも自分で自分を縮める必要はないのかもしれない、と思わされます。派手な人生訓を言わずにそこへ着地するのが、このシリーズのうまさでした。
成瀬そのものの魅力で押し切るのではなく、成瀬に触れた人の変化まで読ませることで、シリーズ全体の射程が広がった一冊でもあります。続編としてかなり理想的でした。