『テラフォーマーズ外伝 アシモフ 1 (ヤングジャンプコミックス)』レビュー
出版社: 集英社
出版社: 集英社
『テラフォーマーズ外伝 アシモフ 1』は、『テラフォーマーズ』本編で強烈な存在感を放つシルヴェスター・アシモフを主人公にした外伝です。舞台は、アネックス1号が打ち上げられる前。火星での地獄絵図の「前日譚」として、地球側の闇と、火星由来の異物が交差していきます。
本編のアシモフは、ロシア三班のリーダーとして戦場を支える人物です。外伝では、その強さが訓練や精神論だけで生まれたものではなく、事件と選択の積み重ねで形作られたものだと分かってきます。戦う理由がより具体的に見えてくる巻です。
外伝の中心になるのは、ロシアンマフィアが絡む「闇のジェド・マロース」事件です。アシモフは対処を命じられ、調査を進めていく中で、この事件にテラフォーマーの卵鞘まで絡んでいることを知ります。
ここが怖いです。テラフォーマーは火星の脅威として描かれますが、その「種」が地球の闇と結びつくと、単なる怪物ではなく、人間が利用する兵器になります。事件のスケールが広がるほど、アシモフは否応なく激化する事態へ巻き込まれていきます。
本編は火星のサバイバルとして読めます。でも外伝は、地球側の思惑が前に出ます。暴力や利権が先にあり、その道具として怪物が混ざってくる。そういう順番です。
この順番で描かれると、読者の恐怖は変わります。怪物は怖い。でも怪物を持ち込む人間はもっと怖い。アシモフが戦う相手はテラフォーマーだけではありません。人間の欲望や組織の腐り方そのものが、敵として立ち上がります。
この外伝には、二重投与(オーバー・ドーズ)という技術が登場します。人為変態の薬を2種類投与して変異する方法ですが、体への負荷が大きく、命の保証はできない。『テラフォーマーズ』の世界が、戦うためにどれほど危険な賭けを重ねているかを、仕組みとして見せてきます。
「強さ」は才能ではなく、人体実験に近い賭けの上にあります。そういう世界観の冷たさが、アシモフの「強い男」像を単純なヒーローにしません。外伝として、強さのコストを描くところに価値があります。
本編では、アシモフはロシア三班を率いて火星で戦い、仲間のイワンとともに古代文明「ラハブ」の手がかりへ迫っていきます。外伝を読むと、そのリーダー像は最初から完成していたわけではないと分かります。
地球側の事件で、卵鞘という異物が混ざった瞬間に、戦いは警察や軍の枠を越えます。そこでアシモフは、個人の正義感だけで片づけられない状況へ踏み込みます。結果として、火星での戦いの前提ができていく。外伝は、本編の土台を事件として描く役割を担っています。
この外伝の作画はBoichiさんです。肉体の説得力が強く、暴力を綺麗に見せない線なので、『テラフォーマーズ』の世界観に合っています。
派手な場面だけでなく、調査の場面や、事件がじわじわ悪化していく空気も濃いです。怪物の怖さより、人間の欲望の臭さが前に出る瞬間があり、そこが静かに怖い。火星の戦闘とは違う恐怖で世界観を補強してくれます。
事件が「ロシアンマフィア」「卵鞘」といった要素で膨らむほど、アシモフは個人の正義では動けなくなります。そこで何を優先し、何を切り捨てるのか。外伝は、その判断の残酷さを見せる巻でもあります。
二重投与(オーバー・ドーズ)のような技術が出てくるのも、ただの設定ではなく「勝つための賭け」を具体化するためだと感じます。勝つために体を壊す選択をする世界で、強い人間は何を守るのか。アシモフの強さが怖さを伴って見えてきます。
事件を追うほど、国家や組織の都合が個人の命を軽く扱う空気が濃くなります。アシモフは拳で解決するだけでは足りず、情報と時間の取り合いの中で判断を迫られる。戦闘の迫力と政治の嫌さが同じページに同居するのが、外伝としての読み味です。
前日譚としての緊張が最後まで切れません。