レビュー
概要
『DRAGON BALL大全集 1: 鳥山明ワールド』は、『ドラゴンボール』連載終了を受けて刊行された「大全集」シリーズの第1巻で、内容の中心はイラスト集(COMPLETE ILLUSTRATIONS)です。漫画本編を読む快感とは違い、鳥山明の線と色が、どう時代を超えていったかを“作品史”として眺められる一冊になっています。
この巻の良さは、単なる画集で終わらないところです。年代別のイラストコレクションに加えて、本人インタビュー(「鳥山明的超会見」)や、作品解説(「完全作品解説」)といった読み物のパートが入り、「絵が上手い」で終わらず「どう作ってきたか」が残ります。
読みどころ
1) 1984年〜1995年の“絵の変化”が追える
年代順に並ぶことで、悟空の表情、ブルマの造形、乗り物のデザイン、線の省略のしかたが少しずつ変わっていくのが分かります。作品を読んでいる時は気づきにくい変化が、イラスト集だと露骨に見えるのが面白いです。
2) 鳥山明の「描き込み」と「省略」のバランスが学べる
細密なのに、読みやすい。情報量が多いのに、目が迷子にならない。鳥山明の絵の強さはそこにあって、キャラの輪郭とメカの説得力が同じ画面で成立します。第1巻はその強さを、イラストの集合体で浴びられます。
3) インタビューと解説で“制作の頭の中”が覗ける
「鳥山明的超会見」や「完全作品解説」は、ファンとして嬉しいだけでなく、創作をする人の参考にもなります。何を面白がり、何を苦手とし、どうやって連載を走ってきたかが、作品の温度として伝わります。
本の具体的な内容
第1巻は「COMPLETE ILLUSTRATIONS」として、年ごとにイラストをまとめる構成が基本です。週刊少年ジャンプの表紙、カラーページ、コミックス関連、ポスターやカレンダー系のビジュアルまで含めて、「この絵、見たことある!」が何度も来る。悟空・ベジータ・ピッコロ・悟飯・フリーザなど、キャラクターの“時期ごとの顔”が違って見えるのが面白いです。
また、本編とは別に、鳥山明が描く「乗り物」「小物」「衣装」のセンスが濃く出ます。カプセルコーポレーションのメカ、戦闘服の質感、背景の看板の文字。こういう細部が、ドラゴンボールの世界の“現実味”を支えていたんだと気づかされます。
読み物としては、本人に迫るインタビュー(鳥山明的超会見)と、作品を振り返る解説(完全作品解説)が重要です。画集は「見る」で終わりがちですが、この巻は「読む」も成立していて、制作の姿勢や当時の空気が残る。さらに、付録のように「神龍通信」という形の小さな読み物が挟まっていて、ファンブックとしての楽しさも強いです。
この本を“資料”として面白くしているのは、イラストが単発の名場面集ではなく、連載の時間と一緒に並んでいることです。悟空がまだ少年の頃の丸みのある線、キャラクターの表情の強さ、背景の情報量。そこから、戦いが激しくなるにつれて線が鋭くなり、構図も大胆になっていく。物語のスケールアップと、絵の設計が連動していくのが見えると、「ドラゴンボールが“大きくなっていった”」ことを、物語ではなく表現の面から実感できます。
また、鳥山明の絵はキャラクターだけでなく“世界”が強い作家だと改めて感じます。服のしわや戦闘服の素材感、乗り物のパーツ、看板や小物の文字の遊び。こうした細部が、ファンタジーのはずの世界をやけに現実っぽく見せる。漫画本編を読んでいると流れてしまう情報が、画集だと立ち止まって拾えます。
類書との比較
漫画本編を読み返すときは、展開のスピードと“次のページの驚き”が快感になります。一方でこの巻は、ページをめくる速度が自然と落ちます。線の太さ、影の入れ方、配色、構図の狙いを追っていく読み方になるからです。物語を追う体験とは別の回路で、『ドラゴンボール』を楽しめる本だと思います。
画集・ファンブックは、描き下ろし中心で“いまの鳥山明”をまとめるタイプもあれば、特定のテーマで集めるタイプもあります。この巻は、当時のイラストを年代順に押さえ、さらにインタビューや解説で「その時どう作っていたか」を残す点が特徴的です。保存版としての強度が高く、「資料として置いておける」種類の一冊になっています。
こんな人におすすめ
- 『ドラゴンボール』が好きで、絵そのものを浴びたい人
- 鳥山明のメカ・デザインや線の美しさが好きな人
- 連載当時の空気や、制作の裏側に触れたい人
- 画集は好きだけど、読み物も欲しい人
感想
この巻は、ドラゴンボールの「物語」を追う本ではなく、「表現」を追う本でした。悟空が強くなる過程より、絵が洗練されていく過程が見える。だからこそ、連載をリアルタイムで追っていなかった人でも面白いと思います。作品の熱が“紙の上の技術”として残っているからです。
個人的には、インタビューや解説があることで、イラストの見え方が変わるのが良かったです。天才の絵は天才のまま降ってきたわけではなく、締切と試行錯誤の積み重ねで磨かれている。その現実が見えると、絵を眺める時間が一段深くなる。ドラゴンボールの入口としても、出口としても、置いておきたくなる1冊でした。
とくに印象に残ったのは、イラストを見ているうちに「このキャラはこの頃、こういう表情をしていたな」と記憶が呼び起こされる感覚です。本編の名シーンを再生する装置としても機能していて、読み返しのスイッチになる。漫画の再読とセットで楽しむと、作品の見え方が一段更新されると思います。