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レビュー

概要

『人新世の「黙示録」』は、斎藤幸平が『人新世の「資本論」』で示した問題意識を、さらに危機の深い段階へ押し進めた本です。前作が「気候危機を生んだのは何か」を問い、資本主義と成長の論理そのものを批判した本だとすれば、本書は「崩壊が進み始めた世界で、どんな政治や統治が現れるのか」を問う構えになっています。読み始めてまず感じるのは、希望の処方箋をすぐ渡す本ではなく、不快な未来像をかなり正面から見せる本だということです。

序盤で置かれるのは、気候崩壊による恒久欠乏経済という前提です。資源や安定が細っていく世界では、人びとは連帯よりも排除へ動きやすくなります。本書がそこで出してくるのが「選民ファシズム」というキーワードです。全員を守るのではなく、守る価値があるとみなされた一部だけを救う政治。しかもそれは、古典的な独裁国家だけでなく、技術と資本を握ったエリート主導でも進みうる。本書の怖さは、その未来像が荒唐無稽な終末譚ではなく、いまの社会の延長線上に見えてしまうところにあります。

読みどころ

本書の読みどころは、環境危機の本でありながら、議論の中心が生活ハックや政策箇条書きではなく、政治思想そのものにある点です。たとえば中盤では「計画経済が全体主義を連れてくるのか」という問いが立てられ、「ハイエクの呪縛」をどう解くかが論じられます。市場に任せればうまくいくという自由主義の常識を疑うだけでなく、では国家が強く統制すればよいのか、という安易な答えにも進まない。その意味で本書は、資本主義批判の本であると同時に、反資本主義の側が抱える難問を逃げずに扱う本です。

もうひとつ面白いのは、「デジタル社会主義」という論点です。環境危機の議論は、しばしば文明批判か技術礼賛の二択になりがちですが、本書はそこを分けて考えようとします。技術は資本主義の加速装置にもなれば、資源配分や公共性を組み直す道具にもなりうる。ただし、それが監視や統制の強化に直結する危険も消えません。この両義性を抱えたまま議論を進めるので、単純な希望物語にならないところが本書の誠実さです。

終盤でさらに重くなるのが、「エコロジー独裁」と「暗黒社会主義」という論点です。気候危機が深まるほど、自由や民主主義を切り詰めてでも環境を守るべきだという議論は現実味を帯びます。本書はその誘惑を見ないふりをせず、むしろ危機の時代の政治がどこで独裁へ滑りやすいのかを見ようとします。そのうえで「暗黒社会主義」という、いかにも挑発的な言葉をあえて使い、明るい進歩史観では支えきれない時代に、それでも連帯の構想を立て直せるかを考えようとします。読み手にとっては楽ではありませんが、この苦さを避けないところに本書の価値があります。

前作との違いもかなりはっきりしています。『人新世の「資本論」』が原因分析と大きな構想を提示した本なら、本書は危機後の統治形態をめぐる本です。だから、前作の延長で「脱成長コミュニズムをもう少し詳しく知りたい」と思って読むと、かなり荒れた場所に連れていかれます。欠乏、戦争、排外主義、テクノ資本主義、計画経済。扱う言葉の重さが一段上がっていて、思想書としての密度も高いです。

類書との比較

環境本の多くは、気候変動の事実を説明し、ライフスタイルや政策の改善を勧めるところで終わります。対して本書が主題に据えるのは、危機が常態化した社会のねじれです。そのため、環境問題の入門書というより、政治思想と社会構想の本として読むほうがしっくりきます。

また、左派的な未来像を語る本の中には、資本主義を批判したあとで共同体や民主主義への期待をわりと素直に置くものがあります。本書はそこでもう一段疑い深いです。善意だけでは持たないし、技術だけでも救えないし、国家に任せても危うい。ではどうするのか、という問いをかなり厳しい言葉で押し返してきます。

こんな人におすすめ

前作『人新世の「資本論」』を読んで、その先の政治的な帰結が気になっていた人にはかなり向いています。環境危機を道徳論ではなく文明論として考えたい人、テクノロジーと資本と国家の結びつきに不安を持っている人、自由と統制のどちらか一方に単純化したくない人にも合います。逆に、すぐ使える実践策や前向きな未来像だけを求める人には、かなり重く感じるはずです。

感想

読後に残るのは、環境危機の本を読んだというより、「危機の時代に政治をどう考えるか」という宿題を突きつけられた感覚でした。とくに、選民ファシズムとテクノ資本主義を並べて考える視点は強く残ります。排外主義や独裁は露骨な暴力の顔だけでなく、効率や安全の名目でも進みうる。その見方は、いまの社会の見え方を変える力があります。

同時に、本書は簡単に気持ちよくはさせてくれません。計画経済を唱えれば済むわけでもなく、技術が味方になる保証もなく、民主主義の言葉だけで危機を切り抜けられるとも限らない。だからこそ、読んだあとに自分の立場をもう一度点検したくなります。環境問題を「いいことをすれば何とかなる話」として読まないための本であり、危機の時代にどんな希望なら空疎でないのかを考えるための一冊でした。

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