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レビュー

概要

『ドロップぽろぽろ』は、中前結花によるエッセイ集です。私家版として出た同名作品が読者のあいだで広がり、それを土台に既存作の改稿と書き下ろしを加えて一冊にまとめた本です。題材はどれも大事件ではありません。日常の中で、ふいに気持ちがあふれた瞬間や、そのとき身体に残った感覚が丁寧に言葉になっています。あとから思い出すと胸が熱くなる記憶も静かに残ります。

この本の魅力は、泣かせようと押しつけてこないところです。家族、友人、仕事、過去の自分、ふとした会話。そういう身近なものに触れながら、「なぜあのとき涙が出たのか」を少しずつ探っていくので、読んでいる側も自分の記憶を静かにたどりたくなります。

エッセイとしてはやわらかいのに、感情の扱いは甘くありません。きれいにまとめようとせず、笑えるところは笑えたまま、みっともないところはみっともないまま残してくれるので、読後感に変な作り物っぽさがないのです。心が疲れているときにも入りやすい一冊だと思います。

1) 大きな事件ではなく「小さな揺れ」をすくうのがうまい

本書に出てくるのは、人生を劇的に変えるような話ばかりではありません。むしろ、「そんなことで泣くのか」と自分でも驚くような、小さな揺れが多いです。だからこそ読み手に引っかかります。

人は本当に苦しいときだけでなく、安心したとき、遅れて実感が来たとき、誰かの何気ない言葉に救われたときにも泣きます。本書はそういう複雑な涙の種類を、大げさに分類せず、そのまま差し出してくれます。感情を分析しすぎないからこそ、読者の側でも自分の体験に重ねやすいです。

派手な告白や強い主張がないぶん、言葉の選び方が重要になりますが、本書はそこが非常に丁寧です。短いエピソードでも、空気の温度やその場の気まずさ、少し遅れて押し寄せる実感が伝わってきます。

2) 優しいだけではなく、ちゃんと可笑しみがある

しみじみした本は、ときにまじめすぎて息苦しくなることがあります。でも本書は、ユーモアがあるので読みやすいです。悲しい話でも、ただ沈むのではなく、どこかで自分を少し引いて見ている視点があります。

この距離感があるから、感動話の連続にはなりません。読者に「泣いてください」と迫るのではなく、「こういう瞬間、あるよね」と横に座って話してくれる感じです。結果として、かえって心に残ります。

また、ユーモアがあることで、登場する人たちが理想化されすぎないのも良いところです。家族も友人も、自分も、ちょっと面倒で、ちょっとかわいくて、でもどうしようもなく大事。その複雑さがそのまま文章に残っています。

3) 一篇ずつ読んでも、通して読んでも効く

エッセイ集は、通して読んだときに散らばってしまうことがありますが、本書は一篇ごとの独立性と全体のまとまりのバランスが良いです。短い時間で一篇だけ読むこともできますし、続けて読むと著者の感情の射程や物の見方がじわじわ見えてきます。

忙しいときでも読みやすく、寝る前や移動中にも手に取りやすい一方で、軽い読み捨てにはなりません。読んだあと、ふと自分の生活の中に似た場面を見つけてしまうような残り方をします。エッセイとしてとても健全な強さがあります。

「生活を書く本」はたくさんありますが、本書は出来事の記録より、感情の余韻のほうに重点があります。だから、暮らしのハウツーを求める本ではないのに、結果として「こういう気持ちを大事にして生きたい」と思わせてくれます。

4) 強い言葉に疲れた人に向いている

最近の本は、結論が早く、主張が強く、すぐ役に立つことが求められがちです。本書はその逆にあります。すぐに使える知識を与える本ではなく、気持ちの輪郭を少し丁寧に見直させてくれる本です。

だから、自己啓発に疲れたときや、誰かの「正しい答え」を読む気分ではないときに合います。何かを達成させる本ではなく、いま抱えている感情に名前をつける手助けをしてくれる本だからです。

読む前より少しだけ人に優しくなれる、あるいは自分の弱さを乱暴に否定しなくて済む。そういう効き方をする本は案外少ないので、この一冊の価値は大きいと思います。

こんな人におすすめ

  • 静かに心へ入ってくるエッセイを読みたい人
  • 泣ける本でも、押しつけがましいものは苦手な人
  • 家族や友人との記憶をやわらかく思い返したい人
  • 生活の小さな感情を丁寧に書いた文章が好きな人
  • 強い主張の本より、余韻の残る本を求めている人

感想

この本は、読んでいる最中に大きく揺さぶられるというより、読み終わったあとに効いてくるタイプのエッセイ集だと思います。派手ではないけれど、あとから何度も思い出す文章が残る。本当に良いエッセイの条件を満たしている一冊です。

気分が落ちているときに読むと慰めになるし、元気なときに読むと人の気持ちへの感度が少し上がる。そういう使い方ができる本でもあります。涙をテーマにしながら、読後に残るのがしんどさではなく、人とのつながりを少し大事にしたくなる感じなのが良かったです。

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    高橋 啓介

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    佐々木 健太

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