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レビュー

概要

『君の火がゆらめいている』は、障害のあるきょうだいを持つ子どもの葛藤を、真正面から扱った小説です。主人公の葉澄は小学六年生。発達障害のある双子の姉・菜々実の通院や学校送迎を日常的に手伝っていて、両親や姉に笑っていてほしいと思っています。けれどその一方で、友だちと遊びたい日も、ひとりでいたい日も、お母さんに甘えたい時もある。そのたびに菜々実の都合が最優先され、自分の中にモヤモヤがたまっていく。この設定だけで、かなり切実です。

本書がうまいのは、「家族を大切に思う気持ち」と「だからこそしんどい気持ち」を対立させず、同時に成立するものとして描いている点です。葉澄は姉を嫌いになりたいわけではないし、家族を捨てたいわけでもない。けれど、きょうだいだから愛している、愛しているから見捨てられない、という構図の重さに押しつぶされそうにもなる。この両義性が、この本の中心にあります。

読みどころ

いちばん大きな読みどころは、「きょうだい児」が抱える感情をきれいごとにせず描いているところです。葉澄は我慢強く優しい子として振る舞いますが、その内側では諦めたくない気持ちや不公平感が確実に積み重なっています。何かを我慢したたびに「仕方ない」と自分に言い聞かせる。けれど、その言い聞かせでは処理しきれない感情が残る。この描き方がかなり誠実です。

そこに大きく効いてくるのが、「きょうだい会」で出会う恵太の存在です。恵太にも障害のある弟がいて、明るく見える言葉の裏に複雑な感情を抱えている。葉澄にとって彼との出会いは、単なる友情ではなく、「自分だけがこんなふうに感じているわけではない」と知る場になります。家族の中では言えなかったことが、同じ立場の相手には少しずつ言える。この変化が、本書をただ苦しいだけの物語にしません。

さらに、本書は葉澄が過去に仲違いした友だちとのやり取りも含めて、「自分の人生をどう選ぶか」という問いへ進みます。障害のあるきょうだいのために生きることが、みんなにとって本当に幸せなのか。それとも、自分の未来を自分の手に取り戻すこともまた大切なのか。この問いは大人が読んでもかなり重いです。福祉や家族の問題としてだけでなく、ケアと自己決定のバランスをどう考えるかという、普遍的なテーマが入っています。

講談社の紹介で印象的なのは、「きょうだいだから愛している。愛しているから、見捨てられない。」という一文です。本書はまさにこの言葉の苦しさをほどいていきます。愛情があるから我慢する、我慢するから言えない、言えないから孤立する。この連鎖を、葉澄と恵太の交流、そして家族の小さなずれを通して見せるため、読者はきれいな正解へ逃げにくいです。

類書との比較

家族のケアや障害を扱う作品は、支える側の立派さを強調しすぎるか、逆に悲劇として描きすぎることがあります。この本はそのどちらにも寄りません。葉澄の揺れを細かく追いながら、姉や親を単純な加害者や被害者にしていない。だから読者は、誰か一人を責めて終わることができません。この複雑さが、本書の質を上げています。

また、児童文学として読むと、かなり現在的なテーマ設定です。きょうだい児の問題はこれまで見えにくい立場に置かれがちでしたが、本書はそこにきちんと光を当てています。中学生や保護者に向けた読み物としてはもちろん、家族支援や学校現場に関心がある大人にも十分届く内容です。

監修に藤木和子が入っていることも、この題材を雑に扱っていない安心感につながっています。家族の葛藤をセンセーショナルに消費するのではなく、当事者が抱える揺れを地に足のついた形で描こうとしている。その姿勢があるから、テーマの重さが単なる話題性で終わっていません。

こんな人におすすめ

家族の中で「わかってもらいにくい役割」を背負った経験がある人に強くおすすめできます。障害やケアの問題に関心がある人、家族を大事に思う気持ちと自分の自由を求める気持ちの両方を整理したい人にも合います。感想文向けの本として選ばれているのも納得で、自分の経験や感情と結びつけながら読みやすい作品です。

逆に、単純に感動したいだけの読者には少し難しいかもしれません。きれいに泣かせる話ではなく、読後に「自分ならどうするか」を考え込むタイプの本だからです。ただ、その問いの深さこそがこの本の価値だと思います。

感想

この本でいちばん心に残るのは、「優しい子」でいようとする葉澄のしんどさでした。家族のために動けることは立派です。でも、立派でい続けることがそのまま救いになるわけではない。むしろ、周囲がその立派さに甘えてしまうことさえある。本書は、その見えにくい負荷をていねいに言葉にしています。

特に良かったのは、葉澄が自分の感情を否定しきらずに前へ進もうとするところです。怒りも、寂しさも、逃げたい気持ちも、どれかを「悪い感情」として切り捨てない。そうした感情を抱えたままでも、自分の火を消さずに生きていくことはできる。そのメッセージがタイトルとも響き合っていて、とてもきれいでした。家族をめぐる本でありながら、自己決定や人間関係の境界線を考える本としても非常に強い一冊です。

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