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レビュー

概要

考える力が弱いのは、頭の良し悪しより「見方が一つに固定される」ことから始まる気がする。立場、常識、前提、空気。そうした枠が先に決まると、情報は理解の材料ではなく、結論の補強材になってしまう。

『知的複眼思考法』は、単眼化した思考をほどき、物事を多角的に捉え直すための基本動作を教えてくれる本だ。複眼思考という言葉は曖昧に聞こえるが、内容は意外なほど具体的で、情報を読む・筋道を追う・自分の論理を組み立てる、といった手順に落ちている。文庫版なので持ち運びやすく、繰り返し参照しやすいのも良い。

読みどころ

1. 「常識」に寄った思考が、創造性を殺すプロセスがわかる

創造性は、天才の才能というより、視点の切り替えに近い。本書が強いのは、その切り替えを、気合ではなく作業として扱うところだ。自分の前提を疑う、別の立場を置く、時間軸を変える、当事者を増やす。こうした手続きを回すだけで、見えるものが変わる。

2. 情報を「正しい/間違い」より「どこまで確かか」で扱えるようになる

情報が多い時代ほど、断定に寄ると危ない。本書は、情報を鵜呑みにするのでも、冷笑するのでもなく、確度や前提を点検する方向へ導く。結果として、意見の強さではなく、論点の整理で議論ができるようになる。

3. 複眼思考を「結論を先延ばしする技術」にしない

多角的に見るという言い方は、優柔不断の言い訳にもなりうる。本書は、視点を増やす目的が「決めること」にある、と暗に教えてくれる。複数の視点を持ったうえで、どの前提を採用し、どこに責任を置くか。ここまで含めて思考法だと分かるのが大きい。

類書との比較

ロジカルシンキング系の定番書は、論点分解や構造化の技法に強みがあり、短期で使える道具が得られる。一方で、視点そのものを増やす手順は読者任せになりやすい。本書は、思考技法を「どの立場から見るか」という前段階まで拡張している点が特徴だ。

また、ディベート本のように結論の優劣を競う構成ではなく、判断の前提を点検する構成になっているため、実務の合意形成に使いやすい。勝つための思考より、誤る確率を下げる思考を求める読者には本書の相性が良い。

こんな人におすすめ

  • SNSやニュースで意見が割れるたびに、考える前に疲れてしまう人
  • ロジカルシンキングの本を読んでも、現場で使えなかった人
  • 自分の結論がいつも同じ方向へ寄るのが気になっている人

感想

この本を読んで有益だったのは、「複眼思考はセンスではなく手順で再現できる」という実感を持てたことだ。立場を一つ増やす、時間軸を伸ばす、反対仮説を置く。こうした動作は地味だが、議論の質を確実に変える。思考法を気分や才能に還元しない姿勢が実務的だった。

特に、視点を増やす目的が結論回避ではなく意思決定の精度向上にある点が明確で、読後の運用がしやすい。読みやすい文庫でありながら、判断の癖を矯正する力が強く、繰り返し参照したくなる一冊だと感じた。

読後に効くミニ実践(A4一枚で回す)

読み終えたら、気になるテーマを一つ選び、次の枠だけ埋めてみると効果が出やすい。

  1. 問い:何を決めたいのか
  2. 視点A:個人(当事者の経験としてどう見えるか)
  3. 視点B:制度(ルールや仕組みとして何が起きているか)
  4. 視点C:環境(経済・技術・国際など外部条件は何か)
  5. 反対仮説:逆の前提を置くとどう説明できるか

重要なのは、全部を完璧にやらないこと。視点を一つ増やすだけでも、単眼化はかなり弱まる。本書は、その「一つ増やす」動作を、再現可能な形で手元に残してくれる一冊だった。

単眼化が起きる3つの条件(自分を守るチェック)

複眼思考が必要になるのは、だいたい次の条件が揃うときだと思う。

  1. 情報源が偏っている:同じ論調の情報ばかりが流れてくる
  2. 立場が固定されている:結論が先にあり、根拠が後付けになる
  3. 短期で決めようとしている:時間軸が短く、制度や歴史の条件が見えない

この3つに気づけるだけで、「いま自分は単眼化していないか?」というセルフチェックができる。本書は、その気づきを言語化してくれる。

実務で効く使い方(会議・企画・意思決定)

複眼思考は、深く考えるほど良い、というものでもない。むしろ、必要なときに素早く呼び出せると強い。

たとえば会議なら、発言を「事実/解釈/提案」に分けるだけで混線が減る。企画なら、「誰のどんな不便を、どんな制約の下で解くか」を先に書くと、好みの議論になりにくい。意思決定なら、反対仮説を一つ置くだけで、最悪の見落としを減らせる。

複眼思考は、知識の量ではなく、手順の質で決まる。本書は、その手順を自分の型として持つための入門になっている。

注意点

視点を増やすと、決めるのが怖くなることがある。けれど、複眼思考は「決めない」ための道具ではない。視点を増やしたうえで、どの前提を採用し、どこに責任を置くかまで引き受けて初めて意味が出る。本書はそこまで含めて読めると、効き方が一段深くなる。

文庫版の良さ

複眼思考は、一度読んで終わりにすると身につきにくい。むしろ、意見が割れる話題に触れたときや、判断が迫られたときに「戻ってくる」ことで効く。文庫版は、その戻りやすさがある。ページ数の重さより、手元に置けるかどうかが大事な本だと感じた。

次に読むなら

本書で「視点を増やす手順」ができたら、次は自分がよく議論する領域の入門書を一冊足すのがおすすめだ。政治、経済、科学、教育。複眼思考は、何について考えるか(素材)が増えるほど強くなる。本書は、その素材を扱うための“器”を作ってくれる。

複眼思考は、世界を難しくするためではなく、世界を丁寧に扱うための技術だと感じた。

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    出版社勤務を経てフリーライターに。小説からビジネス書、漫画まで幅広く読む雑食系読書家。Z世代の視点から現代的な読書の楽しみ方を発信。
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    佐々木 健太

    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

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