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レビュー

概要

「一つの見方に固まる」と、世界は簡単になる。だが同時に、判断は危うくなる。現代は情報が多いぶん、見方が固定されやすい。都合のいい情報だけが集まり、反対の根拠は目に入らなくなる。

『知的複眼思考法』は、その固定をほどくための「見方の増やし方」を扱う本だと感じた。複眼思考という言葉は曖昧にも聞こえるが、本書は「どういうときに視点が単眼化するか」「どうすれば複数の視点を同時に保てるか」を、かなり実務的に整理している。

読みどころ

1. 「正しさの競争」から「問いの整理」へ戻してくれる

議論が荒れるとき、たいてい先に正しさが来てしまう。すると相手の情報は、理解の材料ではなく攻撃の材料になる。

本書の良さは、正しさを主張する前に「何を論点にするか」を整える方向へ引っ張ってくれるところだと思う。論点が整理されると、意見の違いは人格の違いではなく、前提や優先順位の違いとして扱えるようになる。これは疲れにくい。

2. 視点を増やすのは「知識」より「手続き」だと分かる

複眼思考は、博識であることではない。大事なのは、視点を増やす手続きがあるかどうかだ。

たとえば、反対意見を集める、スケールを変える(個人→制度→国際)、時間軸を伸ばす(短期→長期)、当事者を増やす(誰が得て、誰が負担するか)など。こうした手続きを持っていると、感情が先に立つ場面でも思考が安定する。本書は、その手続きの棚卸しに役立つ。

3. 「教育」や「社会」を読む基礎体力にもなる

複眼思考は、ニュースを読むときに効く。特に教育や社会問題は、価値観と制度が絡むので、単眼化しやすい。

本書を読むと、目の前の事象を、原因探しだけで終わらせず「構造」として見る癖がつく。どんな制度が、どんな行動を誘発しているのか。どんな指標が、どんな現実を見えにくくしているのか。こういう問いが立つと、議論の質が上がる。

類書との比較

思考法の本には、論理思考や批判的思考に特化したものが多く、技法習得には有効だ。本書の特徴は、技法を単独で扱わず、視点の切り替え手順として統合して示す点にある。単眼化を防ぐという目的が明確なため、社会問題の読解にも応用しやすい。

また、ディベート本と比べると、相手に勝つための技術より、論点を立体化して判断するための技術に重心がある。結論を急ぐ場面では遠回りに見えるが、長期的には誤判断を減らす効果が大きい。

なぜ単眼化するのか(ありがちな3つの落とし穴)

複眼思考を身につけるには、技術だけでなく「単眼化が起きる条件」を知っておくと早い。僕が日常で感じる落とし穴は、だいたい次の3つだ。

1つ目は、情報源が偏ること。おすすめアルゴリズムは便利だが、見たい情報だけが集まると、反対の根拠が消える。

2つ目は、立場が固定されること。立場が先に決まると、証拠は“探すもの”ではなく“選ぶもの”になる。

3つ目は、短期で決めようとすること。時間軸が短いと、制度や歴史の条件が見えなくなる。

この3つを意識するだけで、「いま自分は単眼化していないか?」というセルフチェックができるようになる。

複眼思考のミニ手順(A4一枚で回す)

僕が一番使いやすいのは、A4一枚に次の枠を作って埋める方法だ。

  • 問い:いま何を決めたいのか
  • 視点A:個人(当事者の経験としてどう見えるか)
  • 視点B:制度(ルールや仕組みとして何が起きているか)
  • 視点C:環境(国際・経済・技術など外部条件は何か)
  • 反対仮説:自分と逆の前提を置くと、どう説明できるか
  • 失敗コスト:外したとき、誰が払うのか

この枠があると、感情が先に立つテーマでも「作業」として考えられる。複眼思考は、才能より手順だと思う。

補助線:情報は“真実”より“拡散”で勝つことがある

複眼思考が必要になる背景には、情報環境の問題もある。SNS上では、真実よりも虚偽のほうが速く拡散しうることが報告されている(例:DOI: 10.1126/science.aap9559)。だからこそ、情報の中身だけでなく、情報の流れ方(なぜそれが届くのか)も含めて考える必要がある。

こんな人におすすめ

  • SNSやニュースで意見が割れるたびに、疲れてしまう人
  • 自分の見方が固まっている気がして不安な人
  • 教育・社会問題を、論点として整理して考えたい人

感想

この本を読んで実感したのは、複眼思考は知識量の問題ではなく、手順の問題だということだ。情報を増やすだけでは視点は増えない。前提を疑い、時間軸を伸ばし、当事者を増やすという手順を回して初めて、判断の質が上がる。本書はその手順を具体的に示してくれる。

特に有効だったのは、反対仮説を意図的に置く発想だ。自分の立場を守るためでなく、見落としを減らすために反対視点を使う。この姿勢は議論の温度を下げ、実務の合意形成にも効く。読みやすく、再利用しやすい実践的な思考法の本だった。

読後に効く実践

読み終えたら、身近なテーマを一つ選び、次の3つだけメモすると効果が出やすい。

  1. いま自分が採用している前提は何か
  2. 反対の前提を置くと、どんな結論が出るか
  3. その結論のコストは誰が払うか

複眼思考は、器用さというより習慣だと思う。本書は、その習慣を「気合」ではなく「手順」として持たせてくれる。意見が割れるテーマほど、手元に置いておくと効く一冊だった。

注意点も一つ。複眼思考は「両論併記して決めない」ことではない。視点を増やすのは、決めるためだ。視点を増やしたあとに、どの前提を採用し、どこに責任を置くかまで引き受けて初めて、複眼は思考法として機能する。読後は、増やした視点を“結論の質”に結びつける意識を持つと、効果が出やすいと思う。

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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