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レビュー

概要

『黒い家』は、「幽霊より生きている人間のほうが怖い」を真正面からやるタイプのホラー/サスペンスです。保険会社の社員・若槻は顧客の家に呼ばれ、子どもの首吊り死体の発見者になってしまう。しかも顧客の態度はどこか不自然で、若槻は独自に調査を始めます。それが悪夢の始まりだった——という導入です。

ポイントは、主人公が特別な能力者でも探偵でもないところ。普通に働く会社員が、仕事の延長として“とんでもない現実”に巻き込まれていきます。日常の手触りがあるからこそ、恐怖が逃げ場なく迫ってくる。ホラー小説としての恐ろしさと、社会派サスペンスの胃の痛さが同居しています。

読みどころ

仕事が恐怖の入口になるリアルさ

ホラーって、怪異に近づかなければ助かる話も多いです。でもこの作品では、仕事をしているだけで扉が開く。若槻は「関わらない」という選択を取りにくい立場で、だからこそ追い詰められます。怖いのに、現実っぽくて、読む側も息苦しくなるんですよね。

“調査”がそのまま恐怖の加速装置

顧客の態度に違和感があるから調べる。調べるほど状況が最悪になる。読者としては止めたいのに、主人公は止まれない。サスペンスの構造として気持ちいいのに、気持ちよさがそのまま恐怖につながっているのが巧いです。

本の具体的な内容

序盤は、事故(あるいは事件)の衝撃と、保険会社としての対応が描かれます。保険金、手続き、書類、聴取。こういう現実の段取りがあるから、「怖さ」が非日常の舞台装置にならず、生活の延長として立ち上がります。

そこから若槻は、顧客の不審な言動の理由を探り始めます。最初は「自分が疑いすぎなのかも」と思いながら、でも違和感が消えない。違和感を放置すると仕事に支障が出る。だから確認する。確認すると、さらに嫌な事実が出る。この段階的な追い込みが、ホラーとして本当に強いです。

この作品が怖いのは、恐怖の発生源が「非科学」ではなく、理屈で説明できてしまう方向へ寄ってくるところです。人間の悪意、欲、計算。どれも現実にある要素で、だから読者は「フィクションだから安心」がしにくい。現実の延長線に落ちてくる怖さがあります。

また、保険という仕組み自体が、善意と悪意の境界に立つ制度でもあります。本来は生活を守る仕組みなのに、悪用される可能性がある。若槻が向き合うのは、怪異ではなく「制度の隙間を使う人間」かもしれない。こういう社会的な緊張が、物語の恐怖に厚みを足しています。

類書との比較

心霊現象中心のホラーと違って、本作は“現実の悪意”が怖さの主役です。だから、派手な怪異を期待すると方向性が違うかもしれません。でも、読み終えた後に残るのは、どちらかというと「この社会で、こういうことは起こりうる」という冷たい感触です。そこが怖い。

サイコサスペンスとして見ても、主人公の立場が一般的な会社員であることが効いていて、特別な正義の執行ではなく「仕事としての判断」が恐怖を呼びます。日常の中でじわじわ詰む感じが好きな人には、かなり刺さると思います。

同じく「人間が怖い」系の作品でも、本作は“仕事の現場”が舞台だからこそ、逃げ方が限定されます。関わりたくないのに、関わらざるを得ない。そこに現実味があり、ホラーの恐怖が地に足のついたものになります。怪談では物足りないけれど、社会派サスペンスだけだと物足りない、という人に刺さるバランスです。

こんな人におすすめ

  • 霊より人間が怖いタイプのホラーが好きな人
  • 社会の仕組み(仕事・手続き)の中で起きる恐怖が読みたい人
  • サスペンスのテンポと、胃が痛くなる緊張感が好きな人
  • 読後にずっしり来る作品を探している人

読み方のコツ

怖さのピークが派手な驚きではなく、状況が詰んでいく過程にあるので、できれば途切れずに読むのがおすすめです。区切ってしまうと、現実のほうが安全すぎて「大丈夫かも」と錯覚しやすい。でも、続きを読むとやっぱり大丈夫じゃない。その落差がしんどいので、一気に読んで“悪夢の業務”として完走したほうが後味は整理しやすいと思います。

感想

この作品の怖さは、驚かせ方ではなく「逃げられなさ」にあると思います。若槻は、好奇心で首を突っ込んだわけじゃない。仕事で、現実として関わってしまった。そして現実のほうが、怪談よりずっとややこしい。だから、恐怖が生活の中へ侵食してくる感覚が強いです。

個人的には、ホラー小説というより“悪夢の業務”を読んでいる感じがありました。怖いのに、状況が分かる。分かるから、より怖い。そういう意味で、ホラーが苦手な人にもおすすめしにくいけど、刺さる人には深く刺さる一冊です。

読み終えたあと、心霊よりも「人の顔色」を気にしてしまうタイプの後味が残りました。怖い話を読んだはずなのに、現実のほうを疑ってしまう。そういう“現実側へ寄ってくる怖さ”が、この作品の一番の強さだと思います。

ホラーとしての怖さももちろんあるのですが、個人的には「制度の隙間」を見つめる視線が一番怖かったです。生活を守る仕組みが、誰かの悪意で簡単に歪む。その冷たさが、物語の底にずっと流れていました。

本の虫達

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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